18

目の前に見えるのは萌黄色の忍者装束。そして隣には青色と水色。

「伊作先輩は殺させない!」
「大丈夫ですか!」
「先輩!」「伊作先輩!」

名前を呼ぶ彼らは。
それに、萌黄色の彼の前には殺気を放つ大人の忍がいた。皆震えている。
 
「忌々しい餓鬼共が…作戦がすべておじゃんだ!部下たちも誰一人として帰ってこない。天女が死んだ今、撤退するのが第一だが貴様らを殺さないと、腹の虫が収まらん!!」
「ま、負けないぞ!伊作先輩は絶対殺させない!」
「乱太郎、伏木蔵、俺もいく!」
「だ、駄目です、お二人だけで勝てるなんて無茶です!」
「そうですよぅ!とんでもないスリルですぅ〜!」
「でも、伊作先輩がやっと帰って来たのに、殺されるなんて絶対に嫌だ!た、倒せないってわかってても、そのまま見ているだけなんて……もう、嫌なんだ!!」

視界が開けた気がした。
 
「天女に先輩を奪われて、居場所も奪われて、でも最初から諦めて、なにもしなかった自分が憎い!あの時どうしてああしなかったんだろう、こうしなかったんだろう、考えれば考えるほど悔しくて……悔しくて、毎日惨めな思いになる。だから、今ここで同じ事をしたら、また、あの時と同じ思いをしなきゃないけなくなる!伊作先輩だって、助けられない!だから、だから……」
「左近」

隣にいた二人がすっと立ち上がり、前へと歩く。
 
「!」
「だったら、私達も」
「同じ気持ちです」
 
皆同じくらい震えている。怖いんだろう?なんで?なんで、そこまで。

「僕たちも伊作先輩に戻ってほしいです!」
「死んじゃうのは、駄目です……。伊作先輩を守りたいです!」
「お前ら…」
「皆!絶対に伊作先輩を助けるよ!」
「「「はい!」」」
 
小さな四つの背中を見ていた。ずっと。さっきまで震えて、凄く小さく見えていたはずなのに、今はなんでこんなに大きく見えるんだろう。何でこんなに、僕なんかのためにっ。皆をほっといて、無視して、しまいには忘れていた。今の今まで、ずっと、忘れていたのに、それでも君たちはずっと。ずっと……。
大きな背中はどんどん歪んで、温かくて、しょっぱくて。
 
さっきまで覚束なかった筈の足はしっかりと地を踏みしめた。
 
「伊作せんぱ」「せんぱい!?」
「っ!」「っ……」

「ありがとう、ずっと待っててくれて」
 
迫った忍者の腕をいなし、追撃しようとした、が、ずっと牢にいたせいか、体が前ほどのスピードで反応してくれない。まずい、一撃もらってしまう!でも、皆を守るためなら……腕一本!
 
「よかった、上手くいったみたいだね」

目の前の忍は固まりそのまま倒れた。そしてその後ろにいたのは、見慣れないくノ一だった。
 
 
…………
 
 
満足そうな表情をうかべる学園長。対して私は相変わらずの無表情。ついで隣の鉢屋三郎はどや顔、立花仙蔵率いる作法委員もどや顔、火薬委員と用具委員も何処か得意気だ。困ったように笑う善法寺伊作を、保健委員の後輩たちはニコニコと囲っている。本来の彼らの姿をみるとなんとも微笑ましい。 

「して、どの様にしてもとに戻したのかの?」
「はい。まず、善法寺伊作が天女が死んだことを認識できていなかったので、それを理解させるために鉢屋三郎に天女に変装してもらいました。彼を外へ誘導し、用具委員と作法委員の共同製作の元、落とし穴型隠し扉を作ってもらいました。そこへ天女に扮した鉢屋三郎を落とす算段でした。ただ、死んだように見せるために、火薬委員に協力してもらい、落ちると共に炎上するように仕掛けを作りました。案の定、死んだと勘違いしてもらい、そこで準備が整いました。
直すためには、彼らの大切なものを、思い出してもらう必要があります。天女が死んだと区切りをつける必要があったんです。そして少々危険なことに巻き込んでしまいましたが、保健委員の皆に説得するため、他国からの忍びに対峙してもらいました。危なくなったら直ぐに殺せる準備をしていたので、その点については不安はありませんでした。が、善法寺伊作の方はきちんと戻るのか、そこが一番の課題でしたが、大丈夫でしたね。他国の忍びもこれでお灸を据えられましたから、一石二鳥というところですかね」
「うむ!褒美にワシのプレミアブロマイドでもやろうかの」
「結構です」

今回はどうもありがとう。皆にそうお礼をいい、頭を下げる。鉢屋三郎はもっと感謝しろなんて生意気なことをいっているが、皆それぞれ謙虚な姿勢だった。高学年以外の生徒を朝食に送り出し、残り一人となった七松小平太について、話した。
 
「やはり残ったのは、七松小平太か」
「申し訳ありません。戻しかたがわかっても、彼に対しては何をどうするべきか、まだよく分からないです」
「ふむ、此方も変わった様子は伺えんと報告が上がっておるしの」

やはり困った。
 
「あの、七松先輩はどういった状態なんですか」

久々知兵助だっただろうか、手をあげて質問してくる。そういえば六年生以外は、どういった状態なのかすら知らないのか。これには他の四年生や鉢屋三郎も興味深そうにしている。鉢屋三郎も善法寺伊作にしか会っていないから、知ってる筈もないか。
 
「彼は今にも暴れだしそうだから、という事で一番厳重な拘束を受けている。でも、殺気はおろか、言葉すらはっさない。明確な意思表示がまるでない」
「それは拘束する意味はあるのか?」
「ないかもしれないけど、私が天女を殺したときを考えると…そうした方が懸命だと先生方が判断したんだよ」

皆渋い顔をする。彼の暴れようは皆知っているようだ。
やはり、中在家長次に協力を求めた方がよいのだろうか。
 
 

 

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