17

学園長に昨夜の偵察隊のことを報告し、今日も今日とて残りの二人のことについて考える。現状確認のために、牢屋へと足を運ぶ。
相も変わらずここは静かだ。夜か昼かもわからない暗くじめじめとしている場所。食事や排泄などの身の回りのことは、先生たちがどうにかしているようだ。何かあれば、先生方は学園長にそれを報告し、それが私の耳にはいる。今のところそんなことはないので、大したことは起きていないようだ。
 
まず出会うのは善法寺伊作。相変わらず隅でぶつぶついっている。ためしに声をかけてみても反応すらしない。やはり天女の姿が必用になるか。
ため息をはき、この奥にいる七松小平太の元へと向かった。
彼も相変わらずの拘束ぶりで、顔以外はほとんどわからない状態だ。そして、殺気がまるでない。が、妙な感じはしてくる。何と言うべきかは分からないが、とにかく変な圧のようなものはある。そして、ギラギラと光る瞳は私を離さない。こんな状態であるのに、中在家長次はきて話をしているのか。
 
「貴方は何を考えているの?」
「……」
「殺気もない、身じろぎもしない。本当は元の状態に戻っているの?」
「……」
「貴方の本当に大事なものって、何?」
「……」
「天女?」
「……」
「同級生や後輩達?」
「……」

駄目だ、何も反応がない。頭を抱えたくなるが、そんな姿を見せるのもどうかと思い、そのまま身を翻す。
 
綾部喜八郎の居た牢に誰かがいるのがわかった。誰だと問いかければ焦った様子で「違います!穴を埋めてる用具委員長、食満留三郎です!」と返ってきた。よくよく見ると、手には鋤があり、奥の方にはぽっかりと大きな穴が見えた。綾部喜八郎は、本当に穴を掘って私の元まで来たのかと少し感心した。
未だにあせあせとしてる食満留三郎に向けていた殺気を収め「ごめん」と謝る。
「いえ、俺こそきちんとあんこさんにも報告しておくべきでした。穴埋めは基本的に用具委員がやらされるので、いつもの調子で……あ、でも下の奴等はここには近づけるなと言われてるんで、他の仕事をさせてます!」
「そう」
別に気になってはいたが、そこまで詳しく言ってくれなくてもよかったのだが。まぁ、丁度いい。六年生のようだしここの二人のことを、食満留三郎にも
聞いてみよう。
ほとんどは立花仙蔵と同じだが、話を聞いていくと彼は善法寺伊作の同級生兼、同室だったようだ。
「あいつは忍者らしくないし、言われたこと、見たこと、直ぐに信じちまうお人好しですから、天女と誰かが話してるだけで不安になってました」
「忍者らしくない…ね」
「ただ、天女が死んだことについてだけは信じないというか、信じようとしないみたいで。現実逃避って言うのが正しいと思いますが、それを受け入れれば伊作の奴も少しはよくなると思うんですよね」
「……ありがとう。それについて少し考えてみるよ」
いえいえと、大きく胸の前で手を振り謙遜するが、顔はどことなく嬉しそうだ。
天女を再び殺す、ね。ただ、それだけではダメなのは分かっている。大切なもの……。
 
―――天女死すことを疑う者達がいる
 
あ、そうだ。いいことを思い付いた。善法寺伊作を元に戻すと共に、忍術学園(天女)を狙う者たちを一同に解決させる方法。上手くいくかは、断言できないが……。とにかく。学園長に報告と、後は綾部喜八郎、鉢屋三郎、そして善法寺伊作の大切な者たちに協力を求めるとしよう。
 
 
…………
 
 
幾日かたった日。忍術学園は嫌に静かであった。時刻は丑三つ時。そんな時間でも修行に励む生徒はちらほらいるはずなのだが、今日に限ってはそんな影も見えない。ある大名に遣える忍隊はじっとりとそれを見下ろしていた。分厚い雲が月を覆ったとき、組頭であろう忍が手を上へあげる。その瞬間周りにいた部下達は瞬時に消えた。暫くしてから組頭もそこを動いた。
 
一人は颯爽と学園の敷地内に侵入し、目的の人物を探す。もう一人は話に聞いている、第一偵察隊を壊滅させたくノ一を探している。あれがいることによって作戦を邪魔されることは明白。足止め役が必要なのだ。勿論一人で行っているわけではない。いわゆる囮。周りには多くの者が控えている。実力がいくら劣っていようと、数を揃えればどうにでもなる。戦とはそう言うものだ。
そして、ピーッと甲高い音が聞こえた。方角からして北西の方。この音がなったということは、天女が見つかったということ。くノ一に注意して音の方へ向かう。
 
そこにはひらひらと躍りを踊るようにあるく天女がいた。その後ろに何か小汚ない人間がいたが、足元もおぼつかず、フラフラとしているし此方側にも気づく様子がないことから、こいつは無視してもよいだろう。問題は天女だ、と思った瞬間、天女は業火の炎に包まれた。何が起こった?とにかく、天女を見つけたら回収するのが役目。急いで向かうが、無数の針が目の前に迫った。
 
 
…………
 
 
天女様が目の前で燃えた。最後に僕の顔を見たとき、寂しそうに笑った。どういう意味なんですか?なんで、燃えて。助けなきゃ!天女様は生きていた!以前僕の前に現れてくれて、また来るといって凄く楽しみだった。ちょっと不安になって、死にたくなったけど、拘束が厳重で何も出来なかったけど……。でもまた来てくれるって思ったら我慢ができた。そしたら、来てくれた。にっこり笑って僕の拘束を解いて歩いていってしまった。きっとおいかけっこしようってことだったんだよね!可愛い遊びが好きだよね。
また楽しく一緒に過ごせる。今度こそ一緒に出掛けたり、お話ししたり、夜を共に過ごしたり出来たのに、こんなところで死なせちゃいけない!必死におぼつかない足を動かして目の前まで近づく。手を炎のなかに突っ込んでみたが、すかして掴むことが出来ない。なんで!?こんなに早く燃え尽きるなんてこと、ありえないのに。その時、バシャア!と水がかけられた。目の前には天女様がいなかった。あるのは着物の燃えカスだけ。嘘だ。天女様が死んだ?嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ
 
手を燃えカスに伸ばし、掴むもそれはハラハラと地面に落ちる。

「あ、あああっ…あああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

何の燃えカスかも分からないものを、かき集め叫ぶ。頭が真っ白になって、何も考えられなくて、でもこのモヤモヤを吐き出さなきゃと思った。が、その叫びも強制的に終わられられる。
体を後ろに引かれキンッという金属音が響く。
 
 

 



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