14

こちらの夜は比較的ゆっくり眠ることができる。あちらほど敵の気配が感じられない。もし敵がいたとしても、瞬殺できるほどに弱い。こちらの忍は術を使える者がいないらしく、さして、てこずることはなかった。
アナの氷術や、根津の雷など、私などでは到底太刀打ちできないものばかりだった。なのでこちらではやや天狗になっているかもしれない。自分ではそんなこと微塵も思ってはいないが、そういう風に見えていたらどうしよう。こんなこと考えたってどうしようもないのだが。 
布団に入り目をつむる。今日もいい夜だ。少しだけ誰かの雄叫びが聞こえるが、それくらいの五月蝿さが何とも心地いい。
 
目を閉じ、浅い眠りについたとき人の気配が感じた。部屋の前に立っているようだった。この部屋を横切る風ではなく、襖の前にじっとたっている。
明らかに不審な動きに直ぐ様起き上がり、襖の影を睨む。髪の毛だろうか、膨れ上がって全体像が山姥のようだ。
まるであの時の鉢屋三郎のよう。まさか、牢から誰かでてきた?いや、そんなはずは……。皆拘束されているし、定期的に巡回だってしているはず。じゃあ目の前のこれは一体誰だ。
警戒していると少しずつだが襖が開く。そこから除くのは人ではあるが、誰なのかは判別が難しい。
襖が完全に開くのを待った。武器はすでに手の中。いつでも戦闘準備はできている。
 
「貴方のせいです……」

この声は、綾部喜八郎?

「貴方が来てからずっと、頭が痛い」
 
彼は此方に一歩一歩、ふらふらと近づいてくる。 
 
「貴方が余計なことを言うから……こんなものを持ってくるから、頭が割れるように痛い!」
 
黒いその姿は、目だけがギラリと光り獣のようだった。それにしてもどうやってこんなところまで出てきたのだろうか。ふと、手元に目がいく。大事そうに抱え込んでいるのは、昼間に渡した鋤。まさかあれを使ってここまで?それにしたって速すぎるし、相当な技術だって要する。
それに今言ったこと。まさか戻りかけてる?だとしたらあともう一押しいるだろう。でもどうしたら。
 
綾部喜八郎の好きなものは、穴堀りそれ以外は?思い浮かぶのは、あのとき話した三人。
そう確信してからの行動は早かった。相変わらずふらふらしている綾部喜八郎に一発いれ、崩れ落ちたところを布団で巻く。
 
「離せ!くそ!!」
 
直ぐ様彼らのもとへかけた。
 
 

パンっ!!襖をおもいきり開けずかずかと入り込む。中の平滝夜叉丸は訳がわからないという顔で混乱しているようだ。その目の前に、ぐるぐる巻きにした彼を転がす。平滝夜叉丸もそれに気づいたようで、すぐに近くへと駆け寄った。
 
「ちょっと見てて、すぐ戻るから」
 
そう言い残し、残りの二人を拐いに行く。

 
 
…………
 

「うう、痛い……!触るな……くるな……っぐ」

二人をつれてきたときには、既に布団は解かれていた、が、頭を抱え床でのたうち回っていた。平滝夜叉丸はどうすればいいのかとオロオロしている。
後ろの二人も驚き、私をすり抜けて駆け寄っていった。
 
「綾部くん!しっかりして!」
「喜八郎!」
 
必死に名前を呼ぶも煩いと拒まれる。一体何が違うんだ……。どうしたらあの時のようになるんだ。
 
「綾部喜八郎、大切なものはその鋤と級友達じゃないの?これ以上に大切なもの、貴方にあるの?」
「黙れっ……」

目を此方に向けない。皆から逃れるように、この状況から逃げるように、頭を深く抱えていく。
こんなにも仲間は心配をしてくれているというのに、何故拒むのだろう。頭が痛い?そんなもの……私なんか会いたくても会えないのにっ。
だんだんと怒りがわいてきて、ついには怒鳴り声をあげてしまう。
 
「逃げるな!!周りに目を向けろ!」
 
彼の弱った腕を外し無理矢理皆の方へと顔を向けさせる。
声をかけていた三人もピタリと止まった。
 
「大切なものはすぐ目の前にあるのに、どうして目を背ける!こんなにも呼ばれて心配されているのに、何故拒む!前を見ろ!後ろなんか振り返るな!
目を覚ませ!」
 
静かに、彼の目から涙がこぼれた。
 
 



 

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