13

もさもさと朝餉を食べながら、善法寺伊作の対処について考える。状況把握は少しは出来ているみたいだった。だが妄想癖が強すぎるためか、事実とは異なることを多々言っていた。
どうしたものか。最初は天女の都合のいい言葉ですんなり終わると思っていたが、すんなりなんて行くわけがなさそうだ。むしろ、天女を出すのはダメだっただろうか。
天女ではなく、保健委員会の子達や、同級生たちに合わせれば事は早く済んだか?いや、そんなこともなさそうだ。彼の目が覚める未来が想像できないのがなんとも。
こんな時幸村様ならどうしただろうか。あの人の頭の中はいつもいろいろな策が張り回らされていて、大抵の人間なんかには理解できないだろう。
幸村様の知恵があれば、少しは変わったのだろうか。

「はぁ」
「あら、あんこちゃん疲れてるのかい?そんなときはたくさんご飯を食べるのが一番だよ!ほら、もう一品おまけしてあげる」
「ありがとうございます、頑張りますね」
「無理だけはしちゃダメだよ?何かあればいつでもここで待ってるからね」

『待ってる、幸村様達と』

任務に出るときの佐助くんと重なってしまった。あったかくて、居心地のよい。あの感じ。

もう一度ありがとうございますとお礼を言って、食堂を後にした。


・・・・・


「あの!」

食堂を出てすぐ三人の忍たまに呼び止められた。装束の色は紫。ということは四年生か。
こんな場所で話してもゆっくり聞けないということで、四年生の長屋へと足を伸ばした。

綾部喜八郎と同室の平滝夜叉丸、同じ学年の田村三木ヱ門、斉藤タカ丸。三人は自分たちなりに綾部喜八郎の戻し方を考えていたようで、私に頼みたいことがあるらしい。

「身元の情報を色んな忍たま達に聞いていると聞きましたので、もうすでに知っていることだとは思いますが、喜八郎は穴掘りが好きなのです」
「うん」
「で、今の喜八郎はその・・・隔離されていて、何も持ち得ていないとも上級生の先輩から聞き出しまして」
「うん」
「これを・・」

渡されたそれは鋤。かなり年季が入っているように見える。話の流れから考えるに、これは彼が使っていたものと見て間違いないだろう。

「これを喜八郎に私て欲しいんです」
「綾部くんがおかしくなったのは、もう何日も穴を掘ってないからじゃやないかって、みんなで話し合ったんです」
「もちろん元凶は天女なのは分かっているんですが、今でも治らないのは、その、好きなものを忘れてしまったからかなと・・・」
「好きなもの・・・」

そういえば、鉢屋三郎はどうして目が覚めた?もちろん大事な級友たちの声を間近で聞いたからというのも一つ。そして私が彼の心を折ったから。いや、彼の心を折っただけでは、本当に元に戻っていたか?あれはほとんど彼らのおかげでもある。私は少し手を貸しただけのような感じだ・・・。
ぐるぐると回る気持ちに蓋をし、彼らから鋤を受け取る。

挨拶もそこそこに済ませ、直ぐに綾部喜八郎のもとへと駆け出した。


・・・・・


「・・・また、来たんですね」
「・・・・・」
「前に言ったこと聞こえてなかったんですか?それとも忘れましたか?」
「綾部喜八郎・・」
「殺しますよ?」

折に近づき、隙間から鋤を投げ入れる。
カランカランと、甲高い音が冷たい空間に響いた。一瞬だが、彼の目が見開かれた。こちらの様子を伺いながら、手を伸ばした。まるで硝子細工を扱うように優しく、慎重に触れていた。
明らかに先程とは様子が違うのが分かる。

「それ、君の同級生が渡してくれって預かったもの。大事なものなんでしょ」
「・・・・」
「君が本当に大事にしてる物って、何?」

ジロリと大きな目がこちらに向けられる。

「天女?いや、話に聞いた限りそんなものじゃなかったはず」
「・・・うるさいです」
「それを最後に使ったのはいつ?ずっと、ずっと使ってきたものなんでしょ」
「うるさい」
「仲間たちはずっと、君のこと待ってるよ」
「うるさい!!消えろ!」

それでもずっとその鋤を大事そうに抱え込んでいるのは、もう一息ということなんだろうか。
これ以上私がなにか言っても、きっと余計な事を考えて、考えもまとまらないだろう。何も言わず、その場を離れた。




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