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「すみませんでした、本当は僕が貴方の事を守ってあげたかったのに、不覚にも敵の毒で麻痺して今は閉じ込められていて……。
はは、情けないですよね…!それに、僕はもう天女様は殺されてしまったのかと。本当に悔しくて悔しくて、死のうと思っていたんです。でも、また会えた!貴女が無事ということを信じていました!それが確信に変わって、僕はまた生きようと思えました!ああ、天女様こんな汚い身ですが、どうかまたその手を、いや、その手に触れさせてください……。僕は…それだけでまた動ける。きっとここから出てまたあなたと一緒にお花見をするんです。お花見だけじゃなくて、海へ行ったり、街へ遊びに行ったり、それから、で、でーとも!はは、前は僕の不運で全然ゆっくりなんて出来ませんでしたけど、今度は花畑に行きましょう。きれいな場所を見つけたんです。あなたにあの場所を見せたいんです。だから、どうかそのお手を……天女様」
 

 
正直言っていいだろうか、気持ち悪いを通り越して怖い。
鉢屋三郎の表情を伺うことは出来ないが、きっと引いているだろう。
さて、どうしたものか……。
綾部喜八郎や、七松小平太よりは簡単に終われると思っていたのに、なかなかに骨がおれそうではないか。
 
返す言葉が見つからない。善法寺伊作は手を伸ばしながら、何かまだぶつぶつ話している。

足に衝撃が走る。返事がないことに鉢屋三郎が痺れを切らしたのか、右足を小さく後ろに蹴りあげてくる。

ちょっと待ってと言いたいところだが、このままというわけにもいかないだろう。だが、中途半端なことを語りかけても進展する気がしない。

「ねぇ、伊作……また、来るから。
 待っててね」
「え?」
 
ここは大人しく一時撤退ということにしますか。
そういい、先に踵を返す。すぐ後ろを彼もまた歩いてくることを確認し、真っ暗な外へと飛び出した。

………… 

「おい!一体どういうつもりだ!」

思っていた通り、出た瞬間に此方へ向かって語りかけてくる。
ご丁寧にその可愛らしい顔も破り捨て、本物か分からない顔で。
 
「鉢屋はあれをみてどう思った?」
「どうって、あれはまるで自分の作った妄想で会話しているようだった。あんなのが六年生だなんて、正直呆れ返るが、私もああいう風になっていたかもしれないと考えると……恐ろしいものだな」
「そう、あれは私たちを見ているようで見ていない。
そんな彼に何を言えばいいか正直分からなかった」
「……」
「ちょっと時間がほしい。彼をこれからどうしていくか考える時間が」
「わかった、準備ができたときまた声をかけろ」
 
そういい、自分の長屋へと戻っていった。
私は学園の塀を飛び越え木の上へ上り口笛をふく。
静かな夜に響く甲高い音はやがて沈み、別の音が遠くから聞こえてくる。

姿を表したのはこっちで飼い慣らした鷲。足には括られた紙が一つ。
天女の情報を集めている際に会った同業者からの情報だ。
 
“天女死すことを疑う者達がいる”
 
気を付けろってことだろう。きっとどこかの大名達がそう思っている。自分の目で確認しないと信じられない人間。今も未来も変わらない。情報がどこまで本当で、どこまでが嘘なのか。それで戦に決着がつく場合だってざらにある。
さて、そうなれば忍術学園に曲者達が入ってきてもおかしくない。学園町先生の耳にもいれておくか。
 
「ありがとう。今日はもうゆっくりおやすみ、用があればまたよろしくね」
 
鷲は大きく羽ばたき遠くへと消えていく。
さて、私ももう寝よう。そして明日は色々考えなければ。
 
 
 


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