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まぁ、たとへいきなり攻撃されてもどうにかできる自信はあるが、傍から見て誤解を受けられても困る。言われたとおり向かい合った状態で。さらに、事前に説明できると尚良いだろう。
忍たまなら誰でもいいだろうが、個人的には今回協力してくれる鉢屋三郎に知っていてもらいたいため、彼を探している。
先程は彼らから逃げていたのに、会おうと思うとなかなか見つからないものだ。これはこまってしまった。授業も終わっているはずなのだが。幸村様も会いたいときにはいつもいなかった。そういう時は大体六郎さんが連れてきてくれたっけ。佐助くんは森にいた。いつも動物たちと戯れたり、一人で鍛錬したり。いつも、あの森で。
任務の時だとこれ以上にも離れている時間が長いというのに、どうしてこんなにも寂しいのだろうか。忍びとしてこんな気持ちを持つこと自体ダメなんだろうが、幸村様のもとについている忍びなら、持っていてもおかしくないのだ。
だから、今だけは・・・感傷に浸らせて・・・。


・・・・・・


さて、問題の鉢屋三郎は見つかった。委員会活動をしていたらしくて、一年生の黒木くんと今福くん、あと尾浜勘右衛門もいた。一年生の二人は授業の問題集をやっているようだが、五年生の二人は寝転がったり、肘を立てて座ったりだらしない格好で茶を飲んでいた。これではどちらが年上なのかわからないものだ。
私が入ってきた時もそう。一年生はこちらに顔を向けて挨拶をして自分の作業に戻った。だが、この二人はこちらに近づいてきてはベラベラと喋り始め、また茶を手に取る。「仕事をしたらどう?」というと「ぶっちゃけここの委員会仕事ないんだよねー」なんていうもんだから、ため息しか出てこなかったのは言うまでもない。

「で、君たちにきいてもらいたい事があってきたんだけど」
「なーに!あんこさんのこと?」
「ふん、聞いてやらんこともないぞ」
「先輩方、近すぎません?」
「あんこさん邪魔そうな顔してますよ」

二人は一年生たちの正しい言葉を聞いて胸を痛めているようだが、突っ込むのもめんどくさいのでそのまま続ける。シナ先生に声質が似ていると言われ、天女に似ている声が出せるようになったこと。それが通用するくらいの出来かということ。天女という言葉が出てくると直ぐに彼らは不快そうな顔をするが、聞いてくれるそうだ。

「うん、では・・・

ねぇ、今日のご飯はぁ何かなぁ?」

が、終わった瞬間何故か五年生二人は笑い始める。え、似てなかったのだろうか。だが、一年生は神妙な顔つきで、うんうんと首を振っていた。

「似てると思います、皆知らずにその声で話しかけられたらきっと驚くんじゃないですかね」
「それより先輩方何笑ってるんですか」
「(本当になんで笑ってるんですか)」
「え?そんなの天女がそんな言葉言わなかったからだ」
「想像できないよねぇ!ははは、#あんこ#さんって意外と食いしん坊?」

何を笑っているかと思ったら、そんなことか。

「でも、すごく似てたと思う。

ほんと、殺しちゃいたいくらい」
「そうだな」

一瞬見せるその瞳は伊達に五年もこの学園にはいないということか。私は静かに目を伏せ、「ありがとう」と礼を言い、その部屋を後にした。



・・・・・・・


そして時間は過ぎ、真夜中。

あの牢屋の扉の前まで来ていた。隣には鉢屋三郎。勿論天女の格好を既にしており準備は万端ということ。目で合図し中へと入る。
相変わらず冷たくて薄暗い。先に前を歩く鉢屋三郎の衣装は、以前本当に天女がきていたものだ。その鮮やかな色が、この薄暗い中でもチカチカと目に眩しい。とにかく派手好きな子だったのだろう。

そんなことを考えているうちに善法寺伊作の牢の前まで来ていた。
私は先程から気配を消していたが、更にそれを殺す。ここでバレては元も子もない。
鉢屋三郎の後ろに密着しながら、柵の前で彼に語りかける。

「伊作」

その声に反応したのかジャラジャラという鎖の音とともに彼の声が聞こえてきた。

「て、天女様!!う・・・ああ!!ああああああ天女様っ!!!」

ガンと柵にぶつかったのが分かる。彼は数日間まともに喋っていないせいか、声は枯れかけていた。泣いたような、はたまた声が枯れたせいか、それでもその悲痛さはひしひしと伝わってきた。

「伊作、なかないでぇ・・・」
「天女様よかった!生きていて、またこうして生きて出会えて・・本当に・・良かった!怪我は!大丈夫ですか!?
ああ、こんな汚い場所にわざわざ来てくれるなんて・・・僕は幸せものです」
「う、うん」

まるで見えているのに、見えていないようだ。勝手に一人でしゃべっている。これはなかなか骨が折れそうだ。こちらの話も聞いているのかすら危うい。




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