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保健室と書かれた教室札を確認し襖を開ける。
そこにはあの時の三人に加え三年生の忍者服をまとった生徒が一人いた。
皆で薬草をまとめたり、物品の確認をしているところのようだ。
すると猪名寺くんと鶴町くんがこちらに気づいた。

「あ、あんこさん!」
「こんにちは」
「こんにちは」

作業をやめてこちらにくる。私の手を一年生の二人はすくって中へ導いてくれる。まだまだ子供特有の温かい体温が伝わって来る。それにとても小さい。手のひらも、まだまだ固くなりきれていない。ふにふにと柔らかい。

「今日はどうしたんですか?」
「どこか怪我でもしたんですか?」

わいわいとくっついてくる中、善法寺くんのことを聞きに来たというと、さっきとは違い真面目な顔つきになる。
その直後、三年生の彼が、「あの」と弱々しく声をかけてきた。目を向けるとものすごく暗い顔をしていた。

「僕は三年は組の三反田数馬といいます。学園を、僕たちを助けてくださってどうもありがとうございました!」
「私だけじゃないよ。君の後輩たちも頑張ってくれたんだから」

両脇にいる二人と三反田くんの隣にいる川西くんに微笑みかけると、照れくさそうに笑う。
三反田くんの表情もさっきより柔くなっているのが分かる。

「これからは君にも助けてもらいたいの。だから、善法寺くんのこといろいろ教えてね」
「はい!」

それから、三人にたくさんのことを聞いた。
あいも変わらず忍者には向いてないほどの優しさ。保健委員会なだけあって薬品、薬草のことについては詳しいそう。ここの世界で相当な実力を誇る雑渡昆奈門(?)と親しいそうで、よく助けてくれるとかなんとか。武器は思いつきでいろいろなものを使うみたい。後は、不運な保健委員会の中でも群を抜いて不運。そのせいか同室の食満留三郎をよく巻き込むらしい。
天女といたときは山田先生から聞いたとおり酷く依存傾向にあったようだ。何をするにも常に彼女の隣にいて、彼女の近くに寄れない時間が長いと過呼吸に陥ったり、自らを傷つけて自我を保つようにしていたらしい。確かに危ない状態であったみたいだ。それがいまだに抜けきらないということは今もそういうことをしたがるということ。
軽い拘束もしてあったし、見回りも頻繁に行っているからそんなに心配はしなくていいだろうが・・・。あまりほおっておくのも良くないだろう。

お礼をいって保健室から立ち去る。

さて、最初の考え通り善法寺伊作の前で天女を出し調子のいいことを吹き込めば問題ないだろう。姿は鉢屋三郎を使えばいい。ただ、何かを吹き込むのに声を真似る必要がある。あの時見せてもらった限り、姿は変えられても声までは変えられないようだった。そこが重要なんだが・・・。

・・・・・

その後くのいち教室の方に声の似ている子はいるかと山本シナ先生に聞いてみたところ、そういった子はいないみたいだ。そうですか、と少し落胆した。が、シナ先生はなにやらふふっと笑い始める。どこにおかしな要素があっただろうか。首をかしげていると「その様子じゃ気づいてないみたいね」とこちらを真っ直ぐ見た。

「あなたの声もう少し低く、ねちっこい喋り方をしたら天女のような声になると思うわよ?」
「は・・?」
「そのままの意味で言ったのよ?試しにやってみたらいいわ」

思考が追いついていないが、催促されるままいつもより低い声で粘つくような口調で・・・。
「あ」と一言発してみると品先生の眉が動く。音程のことや特徴的な語尾など教えてもらううちに、それは荒削りだが完成に近づいていた。
自分の声なんて聞いてもどんなものかわからない。それをあまり覚えのない人物の声に真似るなんて、出来るとは思っていなかった。

「なんだかあの天女様を思い出すわね」

その表情は想い出に浸っているような顔ではない。苦々しい過去を思い出す表情。
物は試しということで、忍たまの誰かに試してみるのが一番効果的と言われた。ただ、きちんと向かい合った状態でやらないと攻撃されるかもとも言っていた。その時の顔と言ったらさっきとは打って変わって、いたずら好きな子供のような無邪気な顔だった。




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