08

頭を下げる彼、敵意は全く感じないが、本当に戻ったのだろうか。

確認をしなければと、手に針を忍ばせたまま近付こうとしたが、後ろにいた仲間の四人が先に近づいていった。
彼を取り囲むように抱き合い、喜び、時には涙して喜んでいた。

感動の場面ではあるが気配を殺さずに近づく。
こんなときに悪いとは少し思うが、私にもやらなくてはいけない事がある。

「鉢屋三郎」

声をかけると五人の顔が一斉に此方に向く。四人は先ほどとはうってかわって怖い顔をしている。
対して鉢屋三郎は申し訳なさそうな、自信の無さそうな表情だ。

「本当にもう大丈夫なんだね」
「ああ、大丈夫だ。もう、あんな馬鹿な事を考えたりしない。
私の大事なものはここにある」

その顔にはキラキラと光が戻っていた。

「……そう。わかった、そのように学園長先生には報告しておく。
今日はもうかえって寝てもいいよ。ただ、明日の朝、学園長先生のもとにきて」
「ああ」
会話はそれっきり。私ももう周りの四人のことで興醒めしてしまい、すぐに眠りにつきたかった。
佐助くんたちは、幸村様たちはもう眠りについたのだろうか…。



……



早朝、日課の訓練を行ったあとご飯を頂き、学園長先生のもとへ向かった。
既に鉢屋三郎がそこに座っていて、話をしていたみたいだ。
学園内のものとしての話もあるんだろう。

「おお、来たかの。今回のこと見事じゃった」
「いえ、まだ一人目ですので」
「謙遜するでない。十分すごいことじゃ。じゃが、あと三人も頼む。わしらも協力できることは出来る限り尽力する」
「はい」

鉢屋三郎が阿呆みたいな顔でこちらを見ている。一体どうしたんだろうか。
なにか気になることでもあるのだろうか。
「なに」と聞くと「いや、べつに」と返される。本当に何なんだろうか。

「して、余計なあれかもしれんが・・・次の参段は大体決まっておるのかの?」
「次といいますか、善法寺伊作の参段としましては、天女に依存している傾向にあります。なので天女の幻影でも見せられれば良いのですが、何分幻術は専門外でして。
忍術学園に幻術の使える方が居れば手を貸していただきたいのですが・・」

ふむと考えこんでいるということは、思い当たる節があるんだろうか。
あちらでも伊賀異形五人衆に幻術使いがいた。私はあったことはないが、それなりの手練でその幻術をとける者は数少ないという。
今この場にいればどれだけいいだろうか。溜息を吐きたいがそれを胸の内で留めておき学園長先生を再度見据える。
が、隣からくつくつと笑い声が聞こえてきた。

また鉢屋三郎か。
今度は何事かと思い、目を向ける。

「幻術なんて使える忍たまはいない。
というか、幻術よりももっとすごいものがある」
「というと?」
「私の変装だ」

すごいドヤ顔で決められた。変装といっても本当に天女に変装できるのだろうか。変装したとしてもそれを見破られたりはしないだろうか。
いやそもそも、私は彼の実力をまだちゃんと見たわけではなかった。
これは少しは期待してもいいんだろうか。

「鉢屋よ。大丈夫なんじゃな?」
「はい、助けてもらった恩人ではありますし、先程学園長先生もおっしゃったではありませんか。出来る限り尽力すると」
「そうか。では、頑張るのじゃぞ。忍者はガッツじゃあああ!!」

ガッツ?

何はともあれ鉢屋三郎が仲間になった。



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