ちゅ…と、軽いリップ音を何度も立てながら狩屋の乳首を啄む霧野の愛撫に狩屋は小さく声を漏らすと相手から与えられる気持ちの良い快楽に身を震わせた。




「気持ちいい?」

「…っ、聞く…な!…ば、か…っ」




 霧野は何故かこのような行為を行う際に決まって狩屋に感想を聞きたがる所がある。ましてや聞くだけならまだしも霧野の場合は質が悪いことにわざわざその言葉を狩屋の口から言わせたがるのだ。
 体感的に感じるセックスも勿論好きと言えば好きなのだが霧野は精神的に満たされるセックスを酷く好んでおり、どうせ同じ内容のことをするのなら…という思考からか必ずと言っていい程それを行いたがる。好きで好きで堪らない相手だからこそ自分の持てる五感を全て活用させた満たされるセックスをしたい。そして願わくば自分が与える愛撫によっていやらしく淫れた相手の多様な姿を見てみたいと霧野はそう思っていた。だが、そんな霧野とは打って違って狩屋はそれを好んではいなかった。何故ならやはり好きな相手だからこそ自分のあられもない姿を見せるということはとてもじゃないが気が引けてしまうからである。もしもみっともない姿を見せて嫌われてしまったらどうしよう。男のくせに可愛くもなんともない声帯を使って喘ぎ声を漏らしてでもみろ。声変わりをまだ終えていない松風や影山達ならまだしも元々声の低い自分がひんひん喘いだとしても心底気持ち悪いだけでしかないのだ。だからこそ狩屋は情事中に声を出すことをなるべく控えていたのだが霧野はそんな狩屋の心情も知らずに声を出せと毎度毎度性行為を行うたびにその言葉を口にしてきた。勿論、そ
れが狩屋にとって苦痛でしかないとも知らずに。
 霧野とするセックスは好きだ。何たって気持ちがいいし、霧野が自分の中で欲を吐き出す瞬間は自分という人間が誰かしら他人に必要とされているのだと感じることが出来る優一の瞬間でもあるからである。だからこそ、この瞬間を感じさせてくれる霧野を手放したくはないと狩屋は心の底から悲願していた。ずっとずっと傍にいて欲しいと思うし、願わくば溢れかえる程の無償の愛を与えて欲しい。自分が幼い頃に無償の愛を与えてくれた母親のように自分を愛し、慈しんで欲しいのだ。両親と別れてからサッカーしか取り柄のなかった自分を誰よりも先に認めてくれた霧野にだからこそ抱いてしまう狩屋の儚い願いを霧野はまだ察することが出来ていなかった。だが、それは仕方がないことだとも言えてしまうのだ。男としての生き方を尊敬することが出来る父親がいて、温かい愛と人生の良い悪いを手厳しく教えてくれる母親がいる。そんな当たり前の家庭で育った霧野に暗い過去を持つ狩屋の複雑な心情は分かるはずもなければ、理解してあげることも出来ないからだ。
 そして、今日もまた霧野は狩屋に問い掛けると狩屋の不安を一層強くさせる。




「なぁ、気持ちいい?」

「声、出せよ」

「好きだよ、狩屋」

「愛してる」




 ――お願いだからこれ以上、俺を苦しませないで。貴方のことが好きだからこそ俺は貴方にみっともない自分を見せたくないの。御免なさい、ごめんなさい、ゴメンナサイ。俺も貴方が好きです、本当に好き、愛してるから。
 黙りになって天井を見上げる狩屋の心情に霧野はまだ気づいていない。ましてや、こいつは本当に俺のことを好きでいてくれているのかな、なんて霧野は霧野自身の不安を胸に抱かせていたのだった。



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