■二人きりのパーリィナイ!
「こりゃアレしかねーだろ。んんんレッツパーリィナイッ!」
二人しかいないのに? という野暮な指摘はしないでおいた。
沙明と二人きりになって人間が勝利したのは、初めてだ。次のループまで少しくらい彼に付き合うことは、悪くないかもしれない。
「パーティ、か。……じゃあ、お酒でも飲もうか? 美味しいのがあればいいけど」
私の認識では、お酒は二十歳を超えてから飲むものだ。沙明の識別年齢は二十一だし、私の識別年齢も二十は超えてるし、問題ないだろう。
最も、この船に乗っている人たちと、私の持つ常識がズレていること自体はよくあることなのだが――
「んー? あー、なるほどねェ。じゃ、そういうことにすっか」
沙明に特に何も言われなかったし、大丈夫そうだ。ループまでのひととき、私たちは、お酒を飲んで過ごすことにした。
二人きりのパーティの始まりだ。
「じゃあ、乾杯!」
グラスを合わせる。本来音を鳴らすのは良くないとも聞いたことがあるが、沙明も私も、そんなことを気にする性格ではなかった。
「お前さ……よく酒とか飲むのか?」
「どうだろうね。あんまり覚えてないかな」
適当なものをつまみながら適当な会話を交わす。この船に乗ってからアルコール飲料を飲んだ記憶はない。そして、この船に乗る前の記憶は私には存在しない。正直な答えだ。
「お前……飲み慣れてねーモンを男の前で飲むのやめろって。襲われっぞ」
「さすが、いいお酒だね。ジョナスが揃えてるだけあるな」
「おま、話聞けよ」
ワインの香りというものはこういうものだったか、なんて思う。案外悪くない。記憶を失う前の私は、お酒が好きだったのだろうか。そうやってぼうっとしていたからこそ、沙明の次の言葉には、少しヒヤリとさせられた。
「つーか……ジョナスって誰だ?」
口が滑った。そういえば、この宇宙の船にジョナスは乗っていないのだった。
「これは……夢なんだよ。私にとっては。そして、沙明にとってもそう。だから私の言葉の意味なんて、考える必要はないんだよ」
ここは、『うやむやにする』で誤魔化しておこう。奇しくもジョナスから教わったスキルだし、沙明もよく使うスキルだ。……口に出してみると、思っていた以上にジョナスっぽい言葉になってしまったけど。
「……ワケわかんねーこと言うよな、お前」
「そうかな。お酒のせいかも」
実際この会話は、私のループを終わらせるためには意味のない、ひとときの夢のようなものだ。だって沙明の特記事項は既に全て解放されている。私はループしてこの記憶はただの夢のような思い出になり、沙明はループした後の私のことをきっと忘れる。
だからこそ不毛で、だからこそ愛しい、意味のない会話だ。
「これが夢だっつーなら……もっと、トコトンいい夢見ようぜ? ベッドなら空いてるし、そもそも二人しかいねーんだ。船のドコでナニしてもモーマンタイだろ?」
彼は、私の言葉の意味を考えるのを諦めたらしい。ある意味沙明らしい言葉だが、お酒のせいか、いつもより酷い気がする。私は苦笑した。
「それはダメ。意味がないからいいの。私は、意味のない夢のような会話をしたいだけだから、そういうことをしたら、意味のある思い出になっちゃうでしょ」
浮遊するような気分のまま、私は彼に笑いかけた。
「ね? ミンくん」
だからその呼び名にも意味はない。多分、きっと、そうなんだと思う。
「っだよ、ケチだなお前……」
沙明はそれしか言わなかった。それでも仄かに頬が赤く見えたのは、お酒のせいかそれ意外の要因か。何にせよ、悪くないな、と思った。
ああ、もうすぐループが始まるだろう。感覚でわかる。そんな中の、夢心地の気分は、案外心地よい。
「また、二人きりのパーティができるといいね。そのときは、誰も汚染者も犠牲者もいない、そんな宇宙で――」
そんな中で。私はただ、眠るように言った。