■ほのぼの生活
▼過去リクエスト企画小説没案のリメイク
とある雨の日。
この時期の雨なんて、本当なら寒いから、できれば外に出ないで、家で暖かくしてのんびりしていたかった。
だけど。
「ピキー!」
この子――共に暮らしているスライムが外で遊びたがっているなら、私も一緒に外に出ない訳にはいかないのであった。
この子には、名前が無い。
否、恐らくあるのだろうけれど、私に知る術はない。
この子は、人間の言葉を話せないから。
だから私は、この子のことを何も知らない。
初めて会った時は、やたらと私の方について回ってきた。
襲われるかも、と内心ビクついていたけど、そんなことはなかった。
寒そうでひもじそうだったあの子を放っておくことはできなくて、匿っているうちに、結局一緒に暮らすことになったのであった。
ただ、私が名付けてみても、全てかぶりを振る。もともと名前があったのかと聞くと、頷くのだ。
それでも、この子の名前がなんなのかは、聞き出すことは出来なかった。
「スライム! ……って呼ぶのも、なんか嫌よね。私が『ニンゲン!』って呼ばれるのと同じようなものね」
そう言うと、この子は深く頷いた。だから私は名を呼ぶことはなかった。名前を呼ばなくたって、心を通じ合えることはあるんじゃないかと、そう思ったから。
私がこの子について知っていることは、スライムである種族ということ。人間の言葉は話せないけれど、人間の言葉を理解しているということ。人間である私に対して、友好的であるということ。これくらいだ。
あと、青くぷるぷるした体と、つぶらな瞳がチャーミングなこと。他のスライムに比べても、この子が一番可愛い。……別に、親バカのつもりはないけど。
まあ、この子と言葉が通じなくても、この子の名前を知らなくても、私としては構わないと思っていた。
だってこの子、かわいいんだもの!
「ピキー!」
「はいはい」
外に出ると、私と遊びたいのか、やたらついて回ってくる。
雨に濡れながら、一緒にはしゃいだ。風邪を引いたとしても、きっと看病くらいはしてくれるだろう。逆にこの子が風邪を引いたら、私が看病してあげよう。
自然とそう思えるくらい、この子と過ごす毎日は楽しくて、そして私にとってかけがいのないものなのであった。
後日。二人揃って仲良く風邪を引いてしまったのは、また別の話。