■拍手お礼文1
束の間の夢から醒め、一気に現実に引き戻される。
ディスプレイから視線をはずし、目の前に広がる空間。それは、見慣れた私の部屋。ここには、私の好きな人はどこにもいないんだな、とただそう思う。
それでもまだ、今まで見ていた夢の多幸感は冷めていない。
夢と現実の差にため息をつく。せめて、この夢を見せた誰かさんに、感謝と拍手を向けようと、もう一度ディスプレイに目を向けた。
その時。
ふと視線を感じ、目線をあげる。そして、思わず目を見開いた。時間が止まる。
「――――」
そこに立っていたのは、私の好きな人だった。
彼の表情はよくわからない。けれど、そこにいるのは紛れもなく、私の好きな人である。―――どうして? なんで?
困惑している私は、一体どんな滑稽な顔をしていたのだろう? 彼が、ふ、と顔を緩ませるのがわかった。途端に恥ずかしくなる。
何度夢を見たって、何度夢で触れたって、何度夢でキスをしたって。彼に実際会ったときの高揚感にはほど遠かったんだな、と今わかった。だってほら。今の私は、今までで一番、胸が高鳴っているの! ドキドキしているの!
「な、なんで?」
思わず口をついて出た声はそんな言葉。いろいろな感情が混じりあって、この一言しか言えなくて。他にいくらでもロマンチックなことが言えたかもしれないけど、私にはそんなことできなかった。
「――――」
対して彼は、少し悲しげに首を降る。またすぐ帰らなきゃいけない、何故かそう言ってるかのように思えたが、確かめることが怖かった。―――もし本当にそうだったら、どうしよう?
そこで、別のことを言ってみることにした。心中の不安を、誤魔化すかのように。
「あの……、さあ。……えっと……。ねえ、暫く、一緒にいても、……いい、かな?」
夢を見ているときはサラリと言える言葉。でも、つかえつかえ、精一杯の勇気を込めないと言えなかった。顔が熱い。体が、熱い。
彼は、少し驚いたような表情を見せると、少しだけ照れくさそうにこちらに来た。そして、一瞬迷った後、なんと! 私の身体に腕を回し、抱き締めたのだった。
「!」
彼の腕の温もりを感じる。
彼は、ここにいる。ここで私を抱き締めている。
彼の鼓動が聞こえる。私の鼓動が聞こえる。
熱くなるお互いの身体と、温もりを感じ、私はただ、幸せだった。
嗚呼、これもまた夢を見ているのかしら。夢を見せられているのかしら。
夢でもいい。夢でもいいから、どうか醒めないで。どうか、どうか。