3.ディ・モールトマーレ!

「……非常に悪い」
 ディ・モールト、ディ・モールトと口に出し悪態をつく。実際この状況はディモールト悪い。
 というのも、何故か『イン・シンク』が使えなくなってると言うのだ。いくら呼ぼうとしても、全く出てこない。
「『イン・シンク』を使わずしてどうやって生きてけって言うの……盗みをはたらいて見つかったら終わりじゃない」
 もう、後戻りできないほど盗んできたというのに。もしかして私のやり方が間違ってた、とでも言いたいのだろうか。だから抗議としていなくなった、と? ならばはた迷惑な話だ。私はお金を盗む以外、どうやって生きればいいのかを知らない。
 私は最初、憤慨していたがこうしてはいられない。憤慨しているうちに餓え死になんて、そんなの嫌だ。以前はいろんな所から少しずつお金を盗み買い物をしていたが、見つかる可能性を考慮すると、どうやらダイレクトに商品そのものを盗むしかない、と考える。盗みの回数自体を減らすしかない、と。その思考に辿り着いた途端、かなり憂鬱になった。今までは盗むことに緊張することなんて、なかったのに。捕まるかも、なんて思う必要はなかったのに。
「嗚呼……ディ・モールトマーレ!」
 
 こうして、毎日のようにパンを盗んだ。たまに違うものを盗む時もあるが。勿論、宿をとることなんてできない。
 何故、こうなってしまったのか? 自分でもわからない。どこで選択を間違えたか? 思うが、『私』は選択を誤ってはいないと思う。過ちを初めに犯したのは、きっと『記憶を失う前の私』だ。いや、『彼女』があの男を殺した、とは限らないわけだけど。それでも『彼女』は何かやってしまったのだろう、と私はそう思っていた。そして、『彼女』の重い罪の尻拭いをするには、私は無知すぎた。それだけのことだった。そう、全ては『彼女』のせい。私は悪くない。私は、悪くない。
 それでも、依然として、『イン・シンク』を使うことは出来ない。その事実は変わらない。段々と体力を消耗していき、最初着ていた服もボロボロになっていた。お金を盗んでいた時に新しい服を買っておくべきだった、と後悔する。
「これ以上盗みをはたらいたら、見つかってしまう」
 私に残っている体力と身なりを考えた結果、その結論に気づくのは当然のことだった。

 そして私は、野良猫のように過ごすことを強いられる。暗く惨めな、希望のない生活を。
「どうにかしないと……でも私は記憶のない殺人者の泥棒とされる……今更警察に行ってどうにかしてもらうわけにもいかない……。誰か雇ってくれないかな……。……無理ね。マーレ」
 暫くそんな生活をする中ふと独りごちて、ため息、ひとつ。
 ふらふらと過ごす。レストランのゴミ箱を漁る。一日中ぼんやりとして、夜になると寒さに震えながら外で縮こまって寝る。他の浮浪児と食べ物を奪い合う。なんて、酷い生活なんでしょう? ――『イン・シンク』さえ使えれば、『イン・シンク』さえ使えれば――

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