可哀相な子だと思った。
小さな頃から子供らしいことなど何一つせずに、剣の道に明け暮れていた。
たった一人の姉と離れて江戸に来て、自分より一回りも上の男達の中に身を埋めて、16歳で初めて人を斬った。
いつの間にか江戸で、彼の名は人斬りとして知れ渡っていた。
彼は、近藤さんに一生ついていくんだと、大きな目に強い光を映して言っていた。それが俺の最大の幸せです、と迷いなく言った。
だけど、あまりにも不憫だと俺は思うのだ。
彼は、普通の子供が得るべき幸せを何一つ知らない。寺子屋に通い学ぶこと、友達と町を遊び回ること、恋をすること。
その代わりに彼は刀を携え、人を殺すことを知った。その道に彼を引きずり込んでしまったのは、俺でもある。
江戸に上るとき、俺も行くのだと名乗りを上げた彼を、姉と共に武州のボロ道場に置き去りにすることはできた。しなかった。彼が必要だった。近藤を頭に据え、俺の理想とする組織を作り上げるために、彼の腕が欲しかった。
彼は人を斬りすぎた。あまりにも多くの業を背負っている。きっと碌な死に方は出来まい。その日まで、僅かでも彼に幸あれと、俺は願わずにいられない。
あくる日、そんな俺のもとに彼はやって来てこう言った。
土方さん、俺、万事屋のチャイナと結婚しようと思います。結婚祝いはうんと豪華なもん頼みますぜ。
副長室で俺と向かい合って、いつになく殊勝に正座なんかして、彼は本気のようだった。
俺は大して驚いてない振りをしながら、あァそうか、と頷いてみせた。内心仰天していた。
驚かないんですね。近藤さんはひっくり返りましたけど。
彼はその様子を思い出してか、くつくつと喉で笑った。
俺とチャイナが付き合ってること、知らせてなかったからなァと楽しげに言う。
土方さんは知ってました?と聞かれたので、俺は首を振った。彼と万事屋の娘は会う度に殴る蹴るの喧嘩をしていたから、すっかり犬猿の仲だと思い込んでいた。どうやらアレはこいつらのスキンシップだったらしい。
俺はおめでとう、とありきたりな祝言を彼にやった。その言葉に彼は軽く会釈をした。

部屋を出ていく間際、彼は俺を振り返った。
口に銜えた煙草を離して、なんだと問うと、彼は滅多に見せない微笑みを浮かべた。
あんたが心配しなくても、俺は今、この上なく幸せです。
そう俺に言うと、今度こそ障子を閉めて、去っていった。
俺は煙草を吸い込んで、天井に向かってフッと煙を吐き出した。四散するそれを見上げながら、俺の願いも少しは叶ったらしいと思った。
同時に、彼に心の内を見透されていたことにほんの少し悔しさが滲んで、俺は苦々しく煙草のフィルターを噛み締めた。





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