沖田の意識し始め 神楽の初花 ちょっとだけ流血してます 可愛い話にしたかったのに書いてみたら若干生々しいすみません ↓ ↓ ↓ 白日の下、睨み合う二人の青少年。 かぶき町の名物となりつつある、沖田と神楽の可愛いげのない喧嘩だ。 殺伐とした空気に気圧されてか、猫の子一匹現れぬ午後の公園。すでにひどい有様だ。えぐれた地面に、横薙ぎの遊具。四人掛けのベンチは今、神楽の二本の腕で宙に放り投げられた。 「ほらチャイナ、こっちだぜ」 沖田は余裕の表情でベンチを躱す。 そのにやけた面を真顔にさせたい、ムカツク。神楽はますます激昂した。 「ハッ」 ベンチの後ろから沖田に飛び掛かり、回転蹴りをお見舞いする。 ドンッと鈍い音がして、確かな手応え。 「うわっ」 軽く吹き飛ばされて、沖田は数メートル後方に片膝をついた。 「フン、ださいアルな」 神楽は憎たらしい顔をして見せた。仁王立ちだ。真っ赤なチャイナ服の腿までのスリットにも関わらず。 「……女じゃねェ」 沖田がボソリと呟いた。 「なんだと」 神楽がすぐさま反応する。 そのまま激しい攻防へ。殴る蹴る避ける受けるの繰り返し、めぐるましく優劣の入れ替わる体勢。 苛烈さを増すそれは、触らぬ神に祟りなしということで放置される。止めに来る連中など彼等の保護者しかいない。 しかし、今日は様子が違った。沖田が途中で攻撃を止めたのだ。 無抵抗の相手を殴る趣味はないので、神楽も訝しみながらピタリと静止した。 「……何してんだヨ」 「……うーん」 沖田の目線は神楽の足を注視しているようだった。 神楽は今更恥ずかしがるような性分でもないが、剥き出しの腿が急に寒気を覚えた。居心地が悪い。 「お前、変態カ?」 じわじわと後ずさる神楽。 沖田はなぜかキョトンとした目で見詰め返してきた。 「チャイナチャイナ」 沖田が指差す。 「何ヨ」 その先を追って、神楽の目線も動いた。己の足へ。 「……」 「……」 …………。 神楽は思考を停止した。 「……血ィ」 小さな呟きは、沖田だ。 ポッテリとした雀が、静かになった公園を歩き回り始める。どこからかやってきた犬がつぶらな眼で二人を見上げた。 「……もしかして、初花」 神楽が恐る恐る口にした。 初花とは、所謂、女子ならばだれでも通る道、初潮のことである。 神楽の日に焼けない足には、一筋の血が付いていた。 今まで全く気付かなかった。この状態で沖田と対峙していたと思うと、気が遠くなる。 神楽の顔に熱が集まった。 「……どうしたらいいアルか?」 俺に聞くなよ、とは沖田の心中である。 「あー、あのさ、ほら、取り敢えず、家返れよ」 しどもどしながらも、やっと答えた。 いくら姉がいたとしても、沖田は男子。初花の詳細なんて知らない。 「志村んとこの姐御にでも相談しな」 それが正しいと思った。 神楽も大人しくコクリと頷く。耳まで真っ赤だった。 「……うん」 羞恥のためか、沖田の錯覚か、神楽の目が潤んでいるような気がした。 ……それが可愛いなんて。 血が見えないように小股になって、静々と神楽が背を向けた。濃い色の服のお陰で、幸にして血が染みて見えるなんてことはない。 「……あの、それじゃ」 不自然な様子で神楽が振り返り、右手を上げた。 「おう」 いたって冷静、を装い、沖田も手を上げる。 神楽の後ろ姿は段々小走りになり、最後は全力疾走で消えた。 呆けて見送る沖田は、上げていた手をだらんと脇に下ろした。 ……なんだかチャイナが女に見えた。 そんな感想を抱く、十八の秋だった。 (20121013) return |