03

 不慣れな廊下。
 薄暗き蝋燭の朦朧とした灯り。
 響く足音。


 何から何までが自分と無縁のものだ。
 前より見えるものの高さに違和感があるために自分は小さくなったのであろうということは承知済み。
 更に自分の容姿が人形だということさえ受け入れつつある。

 そう話状況を纏めるべく脳らしき何かを働かせている内に場所は移動されていった。

 「ここだ」

 そう立ち止まったジェレードの目前に映るのは西洋風の扉。

 ―― A-4 ――

 そう扉上に書かれた立て札には文字。
 何を意味するのだろうか。
 
 そう戸惑いが生じる中で、自分の上に顔があるジェレードは、

「約束は何があっても守れ」

 と一言言い残すと後ろを向いて去っていった。
 仕方なく、ドアノブを捻る。
 ギリギリのところでドアノブは手に届いた。

「……?」

 扉の先に直ぐ様映ったのは同じ人形。
 先程見た自分の容姿ととって変わることもない。あからさまな人間離れした人形。

 パタリと扉を閉めるのと平行して目前の人形がぐらりと音を立てて立ち上がった。

「………誰?」

 そう人形は口を開く。
 恐ろしいことに人間と仕草は大きく変わることなく、とはいえ完全に人間に近い訳でもなかった。

「シャルネ」

 そう先程言われた通りに名前を告げる。

「そう、シャルネ、私はティアリア」

 宜しくね、と少女らしさのある声を上げてから一礼した人形容姿の彼女の髪が静かに揺れた。

 緑色の自分と同じ瞳の色に、ゴールドの髪。
 その白い肌は完全に人工的で人形らしさが際立っている。

「シャルネは、新入りね」
「そう……なるのかな」

 自分でさえここの状況が掴めていない。

「ここはレムシャールの屋敷。ここの主であるジェレード・レムシャールことジェレード博士は人形術士よ」

 博士、人形術士?
 ……人形術士に博士と付ける必要性が疑問だが、"人形術士"というものは何となく理解出来た。

「世界的に有名な人形遣いとして名を募らせているのは……知らないの?」
「知らない」

「じゃあもしかしてこの地図分からない?」
 ティアリアが机から手を伸ばして取ってきた紙を広げる。
「分からない」

「シャルネ、は、」

 冷静さを含んだ声が途切れる。
 あのジェレード博士とやらは世界的に有名だった……など、全く聞いたことがない。
 その地図も自分とは無縁。
 というかまずのその前として、自分の記憶が曖昧だ。

「シャルネはこの世界の人形じゃないの?」

 彼女、ティアリアはその場に座りシャルネも座れと促した。
 促されるままに敷かれた…伝統的ペルシャ絨毯に座る。
 

「……そうなるかな」

「…ここにいる私達人形はほとんど皆、この世界の前世があるのよ」

 そう目を細めて笑ったティアリアを見て、人形なのに表情豊かだと改めて感じる。
 人形には、此処の動く人形には前世が存在するらしい。

「あ、もしかして」

 何かを思いついたように目前のティアリアは立ち上がると遥か天井近くの棚を見上げた。

「ちょっと待っててね」



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