02
「お前の部屋を手配してくる。静かにここで待っていろ」
ジェレードは扉を気味悪く閉めると、去っていった。 どうやら自分の部屋というものが出来るらしい。
と、身軽な身体を動かして辺りを見回す。異常なまでに気味の悪さは平行していた。
近くに散乱した幾つかの書物を見る。生憎、その文字は自分のよく知るあの日本語に変わりがなく、益々この不謹慎な状況が濁ってゆく。
次に発見したのは壁に画鋲によって張られた世界地図のようなもの。 古ぼけ黄ばんでいる為にじっくりしっくりとは見えないも、そこがシャルネ自身のよく知る地球という惑星など比較ならない地形であったことは明確であった。
……やはり自分は、異世界と呼ぶ地に来てしまったのかもしれない。
などという思考が揺らぐも、今は自分の本来の名前さえ思い出せないのだ。 確かに、ここは非日常の中の非日常にあるがそれを信じ受け入れること以外に思い付く行動など何もない。 そう思考を揺るがせ、再び辺りを見渡した。
机と思われしそこに置かれた60センチサイズの球体関節人形。 なんて、他人事のようにその球体関節人形を見上げた後に、近くに置かれた鏡に身を動かす。
………
「っ…」 すぐに目を瞑り、そしてまた確認の為に開く。
人形。
人工的な茶髪に無縁のガラスのような虚ろな緑の瞳。 そして、何より人形を決定付けた、細く、関節が剥き出しになった腕。 鏡に映った自分という者の容姿は完全なるその言葉以外の何者でもなかった。 腕、脚、胴体、首のあらゆる自分の身体は球体関節人形そのものである。
「はぁ」
一度目が点になりつつも自分の冷静さは発揮されていた。 そう鏡越しに自分を見つめていると、ジェレードは帰ってくる。そして戻って来るや否や
「まあ、驚くのも無理はないだろう。お前の見た目はご覧の通り人形だ。ただし、ここにはお前以外も同じ奴らばかりだ。直ぐに慣れるだろう。後の疑問は此れから会う仲間達に聞くといい」
等と口を開く。
"お前以外も、同じ奴らばかりだ"
つまりはこの屋敷内に自分のような、人形の容姿で動く者がいくつもいるというのか。そう考える中でジェレードは続ける。 「シャルネ、お前は今日からここの一員だ。何も心配はいらない。ただし、一つ約束」
そう一旦言葉を切ってから、
「夜は自分の部屋から出ないこと」
「……はい」 全くもって不明のルール。
「お前の部屋を今から紹介する。こっちへこい」
そう、扉が開かれ、廊下の光が照らすのと一緒にシャルネは足を踏み出す。 光があるも、そこが薄暗い廊下なことに変わりはなかった。
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