01

「…ふう、ようやく完成だ」

 不吉な汚れを白衣に付着させた眼鏡の男が一人、呟いた。
 埃の充満した薄暗い部屋を、その声は響かせる。

 どうやら自分は今、見知らぬ地にいるようだ。
そう実感するも眼球を開く動作はせざるを得なかった。

 目を開けて、直ぐ様視界が映したのは蝋燭の寂れた光と、白衣に身を包んだ背の高い人間。
 そして次に感じるは、体の異常な軽さ。


 それから漸くして自分が今不可解な場に直面している最中にあることに気付いた。

 「…ここは」

 声を絞り出すも、その声はまるで別人、いや完全なる別人のもの。
 声帯すら変わり果てている様子である。

 「ここはレムシャールの屋敷。そしてお前の名前はシャルネだ」

 男が声を発する。

 ……シャルネ。
 果たして自分はそのような名前だったのだろうか。
 いや、それは違うのは明確なこと。

 確か、つい先程前、自分は普通の日常中にいなかったのではなかろうか。

 そう、思い返せば鮮明に焼き付いた過去の記憶。

 新学期を迎え早々の時期である。
 桜が季節の象徴となる春。自分の確かに通っていた田舎の数少ない中学。
 間もなく中学三年という年を迎え、教室に見慣れない小さな生徒が入学してくるあの日。

 ……までの記憶から先が、分からない。

 但しのここは。自分の見慣れたものなど何一つない。
 そして、自分の名前はシャルネ。

 「お前が新しい魂か。一応挨拶はしておこう。私はジェレード・レムシャール。我が人形術士の館、レムシャールの主だ。シャルネ、そこから降りてこれるかい」

 マスクの眼鏡のこの男はジェレードというらしい。と、今にでもショートしてしまいそうな脳が新しい情報を取り込む。

 ここは地名的にどの辺りだろうか。

 ぐるぐると回り続ける疑問を喉に押し込め、硬い台に寝そべる軽い体を起こしてから足を地面に滑らせる。
 想像以上など言葉にならぬ程、身体は簡単に動いた。

 そして漸くと自分に置かれた状況を推測する。

 自分は恐らく、別の何者かになってしまったのかもしれないと。

 もしかしたら転生というヤツかもしれない。
 元々いた場所で自分に何があったか思い出せないが、そう感じればそうと仮定するのは容易い。

 ここが自分の知らない異世界なのだということは、何となく予想することが出来た。
 

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