09

 4階の階段に差し掛かろうとした頃に足の疲れを覚える。どうもこの身体には馴染みがない、抑人形に疲労があることに内心笑えてくるもそこは自分ならではの思考回路だと静かに心の底へしまった。

 軽く100を越えてしまいそうな程に大量な人形が存在すると言われるこの屋敷。その癖して不思議と他の人形とすれ違うことはない。人形は常に部屋に佇むのが常識なのだろうかと疑問が横切り消える。

 なんだかんだで、5階に足を乗せた。窓から覗く日光、窓ガラスが綺麗に並んでいる。どうやら手入れは行き届いているようだ。そう思い足を進めた矢先に、壁に飾られた大きな絵画が顔を覗く。
 紫色の髪をした幼い少女の絵だ。長い紫色ストレートに青色の瞳、手に持っているは色とりどりの薔薇の花束。繊細に絵の具で塗られた緑色のワンピースのリアル感はかなりのものだった。

 そう絵画に見入った後、本来の目的を思い出す。静かに先の道に向き直し、足を動かした。
 廊下はかなり長いけれども、ここ5階は他と違う間取りである。そして太陽の光の効果として十分に明るい。

 と、そこで足を止める。
 目前に映るのは両開き形の立派な木造の扉。
 そう、この扉こそが例の《SR-3》と呼ばれた部屋の入り口であろう。

 扉の上には、古ぼけた文字の《SR-3》と書かれた板が打たれている。

 ……なんとも不思議な雰囲気であった。

 あからさまに、"なにか"がおかしい。
 "なにか"がある。

 そう単刀直入に人形からの第六感が察した。
 ポケットに本を突っ込みドアノブを捻ると共に、両扉を開く。鍵は掛かっていないようだ。

「うわ……」

 辺りに綺麗に押し込まれている使われなくなったガラクタ。
 机であったり椅子であったり。
 そして次に部屋の広さを覚えた。

 こちらの本の間取りはここのみフリーハンド明確ではないけれども確かにもう少し広く書かれるはずだ。
 単なる倉庫的扱いを受けているであろう部屋である訳だが。

 更に中へ入ると棚にはアンティークの綺麗な花柄の食器の数々が見えた。
 
「これは…?」

 一角に映ったのはカビた土の入る汚い鉢。元々は何かを植えてあった様子であるが全くその跡すら残っていない。
 と、その鉢を眺めていると不意に体がだるく感じてきた。覚えのある人間的なだるさは人形でも変わらないようだ。


 何故だるくなったのか。

 視線を鉢から離せば体のだるさはいつの間にか退いていた。


 と、脇に置かれた古時計の規則正しい音が耳に煩く入りこむ。覗いて目に映る針は午後の4時。
 どうやら文字といい時間といいほとんどの物は地球および日本の常識と大差ない様子である。

 そう実感したと共に、夕方には戻る約束を思い出す。
 方向転換をすると、来た道を戻ることにした。

 と、途中に見えた割れた鏡に映った自分に再び驚きながら。



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