サイテー男子番外編 | ナノ
日曜日。俺は休日にしては朝早くに起床し、寝起きでぼんやりする頭でゆっくりと身支度をしていた。時刻は9時。いつもならまだ寝ている。朝食をりんご一個で済まし、顔を洗ったり、着替えたりしていればもう10時になった。約束の時間なのだが、少しくらい遅れても良いだろう。

同室者はサッカーの試合か何かでいない。俺は約束の時間が過ぎていることも気にせずマイペースで拓弥の部屋へ向かった。

今日、拓弥に10時に寮部屋に来いと言われていたのだ。あいつ、怒ってるだろうな。遅刻に厳しそうだ。

ノロノロと歩いていたら奴の部屋の前に着いた。ドアの横についたチャイムのボタンを押したら、すぐにドアが勢いよく開かれた。俺はドアから少し離れたところに立っていた為、体すれすれだった。

「チッ…。」

俺にドアを当てようとしたのか、見事にかわした俺に拓弥は不機嫌そうに舌打ちした。危ない奴。そんな歓迎を受けた後、入るよう促されたのでそれに続いて部屋に入った。

部屋は綺麗に片付いていて、宮下の部屋とは大違い。全体的に落ち着いた雰囲気で拓弥っぽい。

前に話は聞いたことがあるが、本当に同室者はいなく1人部屋状態であった。

拓弥は俺を部屋に上げると、ソファーに飛び込むように座り、リモコンでテレビを着けた。

「で、何の用?」

拓弥は呼び付けた客が来たにも関わらず普通に寛ぎ始めたので、俺は突っ立ったまま尋ねた。

「別に用はないけど。あ、ゲームでもするか?」

ただ遊んで欲しいだけじゃないか。それなら暇だから遊んで欲しいと言えば良いのに。大事な用かと思ったじゃないか。俺の返答を待たずに拓弥は立って棚に並んだテレビゲームのカセットを自由気ままにセレクトし始めたので俺は拓弥が座っていたソファーに腰かけた。

「あー、冷蔵庫にコーラあるから注いどいて。俺の分も。」
「客をもてなすつもりはないのね。」

渋々俺はキッチンに入り、冷蔵庫を開けると食材や飲み物が結構充実していた。作り置きの料理も見た感じ上手だ。料理出来るのか、と専ら買い弁派の俺は感心した。手間にあったコーラを手にとり、棚を漁って出てきたグラスを二個手にとり、先程のソファーの前にあるテーブルに置いた。2人分のコーラを注ぎながら、未だカセット選びをしている拓弥を見た。

「意外にゲーム結構持ってるんだな。」
「まぁ、時間潰すには最適だからな。」
「暇人だねぇ。」
「うるせ。」

拓弥はそう言いながら選んだテレビゲームの四角いパッケージで軽く叩いてきた。そのままパッケージを受け取るとどうやら格闘ゲームであった。

「お前、強そうだな…。」

何となく拓弥は格闘ゲームが得意そうだと思った。リアルでもいつも暴力的だし。性に合ってる。

「あぁ、ボコボコにしてやるよ。」
「素人には手加減くらいしてくれないのか。」
「やだね。」

ゲームの準備が終わった拓弥は俺の隣に座って俺が注いだコーラを飲んだ。拓弥がこなれた手つきで操作し、適当にルール説明されてゲームが開始された。2人の超筋肉ムキムキの男キャラが戦闘を始める。



「ちょっ、待てっ、あー、やめ、あぁっ!」
「まだまだ。俺の本気には程遠いぜ。」
「ホントにやめて!」

開始して30分が経ったが、俺のキャラはひたすら拓弥のキャラに嬲られていた。反撃の余地を与えない華麗な連続攻撃に情けない声を上げるだけだ。拓弥はすまし顔で画面を見つめ、コントローラーを操る指は尋常じゃない速さで動いている。

「マジ弱ぇし。」

何回目かわからない俺の敗北に拓弥は呆れたように言う。

「俺はゲームなんてほとんどやらないんだよ。拓弥と違って暇じゃないからな。」
「あ"ぁ"!?」

数えられないほど負けた腹いせに馬鹿にするように言えば拓弥は見事に食らい付いてきた。ドスの効いた声で睨んでくる拓弥は見慣れすぎて何も思わなくなった。

「じゃあお前はいつも何やってんだよっ!?遊び相手なんて俺以外いないだろっ!」

遊び相手が拓弥だけなど勝手に決めつけないで欲しい。遊び相手くらいいるし。最近遊んでないけど宮下とか。この学園の中ならそれだけだけど外には遊んでくれる女の子がいっぱいいるし。という文句が出そうになるのを抑えて質問に答える。俺がしていることと言えば、何だ。

「…SNSとか?メールもちょいちょい。」
「え、SNS…。」

俺の言葉に何故か愕然とする拓弥。

「もしかして、その、友達、みたいなのがいっぱいいるのか?」
「うん?」

ちらちらとこちらを伺うように聞いてくる挙動不審な様子に怪しく思ったが、友達の有無に敏感な拓弥の意図を読んで、にやけながら言葉を続ける。

「そうだなー。俺イケメンだしー、皆に人気でーフォロワーも多いんだよなー。」
「くっ…。」

悔しそうに俯く拓弥に笑いが出そうになる。ふっ、勝った。…さっきはボロ負けしたけど。「…メールがある…。メール…。」などと呟く拓弥に何、と聞こうとしたらいきなり勢いよく立ち上がってまたゲームの本棚に向かった。

「次はこれだ!またボコボコにする!」

またゲームをすることになったようだ。




一日中ゲームで遊び、最後の方は俺も拓弥と互角に戦えるようになったがやはり勝つことはなく終わり、俺は自室へと帰った。三寺はまだ帰ってきていない。スマホに手を伸ばすとメールが来ていた。疲れきった目を無理矢理開いて見てみると、

[これから暇になったらメールしてやる。さびしかったら蓮からもして良いからな。]

何とも上から目線な拓弥からのメールだった。お前が寂しいんだろうが。苦笑をこぼしながらメールを返信してみた。

[暇になったらって、いつも暇なんでしょ?笑]

からかいをこめて送信して、拓弥から[死ね]という返信が来るのは異様に速かった。




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