小説 | ナノ


まぁ、そんなわけでかれこれ1時間程手紙の主を待たせているわけだ。もう帰ってしまっただろうか。帰ってくれたらこっちとしても好都合なのだが。早く街へ出たいからな。校舎を囲む林の近くまで行くといくらか涼しくなった。ここをずっと行って曲がれば手紙の主がいるのだろう。男にラブレターを出す男なんてどうせろくでもない奴に違いない。女の子気取りの奴だろ。

面倒だなぁ、とげんなりして歩くと、ふと、木の上の方でがさごそと音がするので目がいった。

そこにはすっかり見慣れた赤髪の不良が木の幹から枝が出ている部分に上手い具合に座っていたわけだ。木の上から俺を見下ろす羽根は目が開ききっていない眠そうな顔をしていた。

「何やってんの。」

まさか木の上で寝てたわけあるまいな。不良はそんな高度な技を持っているのだろうか。俺が問いかけると羽根は何も答えず、あくびをしてから木の枝に立って、軽い身のこなしで枝から枝へと順々に下へ下りて来て、しまいには2メートルくらい上から地面に飛び降りた。運動神経良すぎないか。

「桐矢、お前こんなとこで何やってんだよ。」

羽根の寝起きとは思えない華麗な動きに忍かいな、と軽く引いている俺に同じ質問をし返した。羽根はもう一度あくびをしてから再び問う。

「また宮下のパシリか?」
「違ぇし。」

いや、まぁ、さっき雑用させられたのは事実だが今は違う。俺が言うと羽根はどうでもよさそうにそうか、と言った。

「羽根こそ何してたの。」

俺も再び同じ質問をする。というか俺が先に聞いたのに。

「式めんどいからここで寝てた。」

終業式サボったのか。不良のテンプレを見事にこなしてやがる。それでやっぱり木の上で寝ていたらしい。よほどバランス感覚が良くて寝相が良いようだ。落ちたりしないのか。



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