小説 | ナノ



「意外と綺麗ー。」

もじゃ男の煩さを久しぶりに味わって、格段に静かな場所で昼食が食べたいと思い、森と校舎の間に設置してある非常階段へと行ってみた。拓弥が俺と食べるようになる前に食事処にしていた場所。ここなら静かで落ち着けるだろう。ゴミ捨て場同様、非常階段も清潔感のある白で無駄にきらびやかであった。日陰になっていて涼しいし、居心地が悪いわけではない。

「…良いとこだろ。」
「悪くはないけど良くはない。」

いくら綺麗でも非常階段であることには変わりない。夏は涼しくて気持ち良いだろうけど冬は寒いんじゃないか?冬はどうしていたのだろう。

拓弥は非常階段の段に座って、食べかけのパンを食べ始めた。

「笑っちゃうよなぁ。俺、見事に誰からも嫌われてるんだぜ。誰でも友達ーなあのもじゃ男にさえあんなんだしなぁー。」

俺に背を向けて喋る拓弥の表情はわからない。何だこのシリアスな雰囲気。俺こういうの苦手。

「うん。マジウケるよ。」

とりあえず適当に返事してみた。我ながら最低な返し方だと思った。軽い付き合いばかりだったせいか、励まし方なんて知らない。大丈夫か?の一つや二つくらい言えば良かったのに。

「やっぱり?」

失言だったか、と思った時拓弥が振り返って、眉尻を下げてうっすらと笑う。さっきの返事が正解だったのかどうかはわからない。しかし、まぁ、さっきので本格的に泣きださなくて良かった。ちょっと焦った。

「蓮。さっき言ったのは本当?」
「何が。」
「蓮は、俺の友達?」

拓弥の不安げな表情を俺は初めて見た。普段あまり笑わないくせに無理に作った笑顔に目を背けたくなる。


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