小説 | ナノ


疲れる。率直な感想だ。拓弥が未だ1人座って俯いているのが目に入った。普段はあんなに気が強くて口が悪いのにいじめられっこみたいだ。いつものように、さっきみたいに、言い返せば良いのに。俺が呆れるくらいにムカつく相手に噛み付けば良いのに。

「さぁ、蓮っ!早く行こう!」
「桐矢、真灯留がせっかくあなたのような人を誘ってあげているのに、その優しさを無下にするつもりですか?」
「俺らも待たされてるんだけどぉ〜。」

もじゃ男が言うのに続いて副会長と会計がイライラしているのを隠そうともせずに言った。そんな高圧的な態度しないでよ。

「嫌だよ。つーか生徒会が俺に話し掛けないでよ。制裁されるじゃん。」

別に制裁されても良いけど。俺がそう言うと生徒会の皆サマは押し黙る。元生徒会のくせに、と誰かはわからないが小さく呟かれたのが聞こえた。すると、もじゃ男が何を思ったのか、ぱぁっと笑って自信満々に答えた。

「あぁ!蓮はそれを気にしてたんだなっ!大丈夫だっ!親衛隊からは俺が守ってやるからっ!俺強いし!それに制裁してたのはそいつなんだぞ!だからそいつと一緒にいるのは駄目なんだっ。」

もじゃ男は拓弥を指差して言った。本当に悪者扱いされてるみたいだな、拓弥くんは。何でここまで嫌われるのか不思議なくらいだ。顔が可愛いから、口が悪いから、親衛隊なんかに入ったから、いろんな理由が重なってるんだろうな。

「何か、勘違いしてるみたいだけど。こいつさぁ、俺の友達だからね。」

皆、目を見開いて驚いた顔で俺を見た。俺はそんなに変なことを言ったか?もじゃ男とその取り巻き達のぽかーんとしたまぬけな顔に心の中で笑う。イケメン達が同じ表情で固まってるのが何だか面白い。その隙に俺はもじゃ男の手から腕を抜いた。

拓弥も同様まぬけな顔をして、大きな目から一筋に滴が流れたのを見ない振りをして、拓弥の手首を掴み、自分も昼食のパンを持って教室を出た。もじゃ男がついて来ないのを確認して拓弥を掴んだ手を離し、ゆっくりとパンを食べながら歩いた。


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