小説 | ナノ


もじゃ男といい取り巻きといい拓弥に対して酷い言い様だ。取り巻き達は親衛隊を毛嫌いしているから納得しないでもないが、もじゃ男は拓弥と何かあったのだろうか。

「ほらっ蓮、一緒に食堂行って俺達と食べようぜっ?こいつに脅されてるんなら大丈夫だ!俺達がついてるからっ!」

満面の笑みで両腕を広げて俺を迎え入れようとしている。ギャグでやっているのかとも思える。脅されてるってどういうこと?

「蓮…。」

そのやり取りを見た拓弥が行くなと威圧するような眼差しに少し不安を孕んで見つめてくる。そんな顔しなくても俺がもじゃ男について行く訳がないだろう。

「拓弥。」

本人に向かって名前を呼ぶのはこれが初めてだった。名前を呼ばれてわかりにくいが嬉しそうにしていると思われる拓弥は「何だよ…。」と口調だけは不機嫌を醸し出している。口の端が上がるのを隠そうとしてか口がもごもごと動いている。

「それ持って行くぞ。」

拓弥が手にしたままのパンを目で示して言った。

「何でだよ蓮!そいつは危ないんだぞっ!?千鳥達だってそいつのせいで今まで友達出来なかったんだからな!」

俺が立ち上がって拓弥と行こうとした様子を見てもじゃ男は慌てたように俺の腕を掴んで止めようとする。相変わらず力は強い。

「蓮は俺の友達だろ?蓮も前の千鳥達みたいになって欲しくないっ!」

顔はよく見えないが縋るように見つめてきているだろうもじゃ男に俺はため息をついた。もじゃ男はしつこいし、もじゃ男が俺に構うのが気に入らないのか取り巻き達が睨んでくるし、面倒だなぁ。

俺はいつもじゃ男の友達になったのかはわからないが、もじゃ男が拓弥を敵視している理由はわかったような。大方、自分の友達が拓弥達に苦しめられているからそんなの酷いっ!最低だっ!というような感じだろう。他人を思いやる優しさがあるなら力強く掴まれて腕が痛いと思っている俺に気付いて欲しいなぁ。


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