小説 | ナノ


いざ、部屋の前に来たのは良いが俺は呼び出すチャイムを押せずに立ちすくんでいた。新崎が早く押せよ、と急かすがやっぱり緊張するんだよなー。こんな畏まったことをするのは初めてだ。

「チッ……遅ぇんだよ。俺だって暇じゃないんだっつーの。」

苛立ち始めた新崎が舌打ちをした後勝手にチャイムを押した。

「え、ちょ、何やってんだよ!?」

何してくれてるんだこいつ…!暇じゃないってどうせ用事なんてないくせに…。後で絶対文句言ってやる。

あー、ちょっと待って心の準備がぁ。

俺があわてふためていると、がちゃりとドアが開いて今朝見たばかりの赤髪が目に入る。

「何か忘れ物か真灯留――――桐矢…?」

もじゃ男が戻ってきたと思っていたらしい羽根が目を見開いて俺を見る。隣の新崎に視線を向けると更に戸惑っている様子を見せた。

「…どうした?」
「あっ、えっと…。」

不思議そうにこちらを見て言う羽根に思わず肩をはねて言葉につまる。…どう切り出させばいいんだろう。

新崎を横目で見るが早くしろと言わんばかりに顎で合図をする。せっかちめ…。どうやら助けてくれるつもりはないみたいだ。


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