小説 | ナノ


その後何も喋らないまま校舎に入ると、既にHRが始まっているようで出歩く生徒は見られなかった。あーあ、宮下に殴られる。げんなりしながら教室に向かおうとしたら、隣の羽根が立ち止まった。

「俺あっちだから。」

羽根は俺がこれから向かおうとする教室とは反対方向に親指を向けながら言った。

「…Eクラスか…。」

そんな羽根を察して小さく呟く。

この学校はAからEまでクラスがあって主に家柄や成績などで分けられる。俺がいるAは家柄、成績が良いクラス、Bははそこそこの家柄のクラス、Cはそこそこの成績のクラス、Dはその他、普通のクラス。

しかし、Eだけは家柄も成績も関係なくただ素行不良の生徒が集められるクラスである。赤髪でいかつい顔の羽根はいかにもEクラスだ、と思った。不良だし。

Eクラスの生徒は他の生徒に危害を加える可能性が高いから、AからDクラスの教室とは離れた場所に教室があるのだ。

「じゃあな。」
「あ…。」

羽根は颯爽と歩いて行く。ちょっと待って欲しいんだけど。俺だってねー、わりと普通の人だからねー、礼くらいは言いたいんだけど。

そんな俺を知らない羽根はどんどん遠ざかる。あー、どうしよ。でも今さら言うのも恥ずかしい気がする。別れ際にさらっと言えば良かった。

結局、ありがとう、とも言えずに俺は羽根とは逆に歩き始めた。


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