小説 | ナノ


問題の彼女だけじゃない。他の8人全員にもだ。寮生活をするはめになったのでしばらく会えない、と。

部屋ではやめよう。おそらくすんなり話は通らないだろう。痴話喧嘩を人に聞かれるのはよくない。

ということで滅多に人通りがない、校舎に隣接してる林で覚悟を決めた。

プルルルル――

『…蓮君。』
「…伶奈…。」

まずはじめに一番厄介で一番今キレている例の束縛彼女に電話をかけた。

『蓮君、何で電話なの?私は直接会って話したいのに。』

電話越しに冷えるような声がする。背筋がゾクゾクするのを堪えて俺は恐る恐る声をひねり出した。

「伶奈、ごめん。しばらく、会えないんだ。」

応答はない。この沈黙が俺の体温を下げていくようにも感じる。緊張して息がしづらい。しばらくの沈黙の後、更に底冷えする伶奈の声が。

『…別れろってこと?』
「ち、違うっ!」
『違くないでしょ?あの女が好きになったから私とはもう終わりにしたいってことでしょ?』

自虐的で泣きそうで、かつ責めるような声が聞こえてきた。

怖い。俺も泣きそうだ。



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