小説 | ナノ



「先輩にそんな口きくなよ。な、その女もお前に飽きたみたいだし大人しく俺に連れて帰られろ。」

俺がそう言うと桐矢は悔しそうに顔を歪める。その表情見てると超楽しい。無言のまま返答を待っていれば桐矢は不服そうな視線をそらし、極上の笑顔で女と向き合った。何なんだこの扱いの差は。

「ごめんな、アヤ。俺もう…。」
「ううん、全然!そ、それよりこの人は…?」

桐矢の顔を全く見ずに、俺に熱い視線を送ってくる女に極上の笑顔は引きつった。面白すぎる。

女と別れた桐矢はずっと仏頂面のままだった。態度の変わり様にむかつくのは仕方がないだろう。いったん桐矢のアパートに戻り、荷物をまとめて出てきたら俺達の車に乗せて学園に向かった。本当に大人しく連れて帰られている。

車に乗る時に俺が隣に座ると嫌そうに睨まれたが、必要以上に俺と関わりたくないらしく扉側に体を預けてすぐに寝てしまった。手持ちぶさたになった俺はなんの気なしに穏やかに眠る桐矢を観察していた。

綺麗な寝顔。率直にそう思ってしまう。いつも不機嫌そうにしているから、なおさらだ。男にしては肌が白いし、茶髪から覗く耳についた赤いピアスが何だかエロい。1ヶ月前より髪の色が明るくなって見えるのは染め直したからだろうか。

…思考が止まらん。変な気を起こしそうになったのでふいっと桐矢から目を外した。真灯留のことを考えよう。しばらく顔を合わせていないが、変わらず元気なのだろうか。俺がいない間に他の奴らに先を越されていないか心配だが、そうも言ってられない状況だからな。

そういえば何で真灯留は桐矢にあんなに構いたがるのだろうか。いつも無視されたり拒絶されたりしているのだから俺だったらとっくのとうに諦めている。桐矢の俺の元親衛隊長である新崎は友達だと宣言した後は真灯留を宥めるのが大変だった。桐矢は何故新崎と親しいのかもよくわからない。


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