小説 | ナノ


しかしアパートはもぬけの殻だった。すれ違いになったのだろうか。まさか無駄足。と沸々と怒りが湧いてくるが、冷蔵庫にはヨーグルトや食べきっていない箱アイスなど生活感丸出し。更に、携帯の充電器がコンセントに刺さったままだったり、洗濯物が干したままだったりと、この状態で寮に戻っているとは考えにくい。

俺達がたどり着いた結論は1つ、街で女遊び。これしかなかった。

そうとわかった俺達は人の賑わう繁華街を手分けして捜索することを開始した。見つけ次第俺に連絡することになった。つまり説得役は俺に決定しているということか…面倒。

しばらく捜索してもやはり人が多い街、簡単には見つからない。桐矢は顔立ちこそ目立つもののこんなに大人数の中から見つけだすのは難しい。奇抜な髪型をしているわけでもないしな。

結構な時間が経ってから俺の携帯が震えた。着信はやはり理事長の部下から。桐矢を見つけたらしい。急いで現場に向かえば案の定女と並んで歩く馬鹿がいた。学園にいる時と雰囲気が違う。今まで一度も見たことがない笑顔で女と話している。髪型もワックスでしっかり決まってるし、服装も大変気を遣っているのがわかる。学園にいる時のつんけんした感じとは違い、全体的にゆるい感じだ。クソ、こっちの気も知らないで楽しそうに喋りやがって…。

桐矢に近づくにつれ苛立ちが増してきて、驚かせるというのをわかって背後から肩を掴む。

「うおっ!」

予想通り、驚いて肩を跳ねたそいつは振り向いて俺を見ると面白いくらいに固まってしまった。話しかけても無言で、次第に目付きが鋭くなりいつもの刺々しい桐矢になった。連れの女が俺に熱の籠もった視線を送れば桐矢はあからさまに不機嫌になる。

「……こんな奴知らない。」

連れの女が俺に夢中なのが不愉快で仕方がないというのが取ってわかる。そんな優越感に笑みをうかべた。


prevnext