小説 | ナノ


SIDE:千鳥

早朝に理事長室に呼ばれて何事かと思ったらとんでもないお願いをされてしまった。

「…桐矢を、ですか…。」
「そう。私の秘書だけでも良いんだけど、同じ生徒の方が説得したり、口車に乗せたりとか、出来るだろう?」

だから上手い具合に桐矢を連れ戻せ、と。今まで桐矢の不登校を放任して来たのに何故迎えに行くなどと気にしだしたのだろう。中学の時に短期間だけ生徒会業務を共にした後輩を全く気にしなかった訳ではないが、不登校の理由が女遊びなど阿呆らしすぎて思考から排除した。だが、あいつは今年度になって3週間程しか学園に滞在していない。さすがに問題視されたのだろうか。

「わかりました。」
「ありがとう。悪いね、仕事が忙しいのに。」

微笑む理事長に俺は気まずさを覚え、目をそらした。生徒会の仕事は、かなり滞納している。事の重大さに気がついたのは1週間前。久しぶりに生徒会室に行ってみれば役員それぞれの机に紙の山。呆然と立っていればちょうど風紀の由井が入って来て殴りかかって来そうなくらいキレられた。

風紀は生徒会がやっていなかった仕事を代わりにやっていたらしい。そこでようやく遊び過ぎたと反省した。風紀なんかに借りを作っちまったし…クソ。それから他の役員は未だに真灯留とわちゃわちゃやっているが会長として俺だけは仕事をして生徒会を立ち直らせてやろうと思ったが、普通に無理だった。

そんな時にこんな意味不明でくだらない理事長からの仕事。罰なのか。職務放棄の罰なのか。不満に思いつつ理事長の部下と名乗る黒スーツの男数人と共に5時間かけて桐矢の住む街へと向かった。

忙しくて桐矢なんかに構っている暇はないのに、あの馬鹿は俺様の手を煩わせやがって…。少しは八つ当たりでもしてやろうと思いつつ、桐矢の住むアパートに殴り込みに行った。不法侵入など知ったことか。管理人を言葉巧みに操って鍵を獲得したのだ。さすが俺。



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