小説 | ナノ


羽根に影に隠れているよう言って、ようやく約束の場所に来た。そこには座り込んで俯いている小柄な男子生徒が。俺がわざと足音を立てて近づくと勢い良く顔をあげ、俺を確認するとその勢いのまま慌ただしく立ち上がった。微かに赤が差し込む顔は中の上の拓弥以下。やっぱり女顔の部類だった。

「…来て、くれないかと、思いました…。」

緊張しているのだろうか、恥ずかしがっているのか、顔が赤いまま一生懸命にひねり出したような声を出す。制裁の可能性は0に消えた。

黙って相手を見つめているとふるふると震えながら言葉を続けた。

「あの、突然お呼びだしして、も、申し訳ないのですが、僕、あの…。」

俯き気味に途切れ途切れに話す男にさっさと喋れよと若干苛立ちを覚えるが顔には出さぬよう気をつける。

「き、桐矢先輩のこと、ずっと、ずっと好きで…。周りの皆は桐矢先輩は最低とか言ってるけど、僕から見たら全然そんなことなくて、…」

―――暑いなぁ…。こんな太陽の下で突っ立ってるの本当に、暑いなぁ…。後でアイス食べようかなぁ…。気持ち悪い告白に思わず違うことを考えてしまう。

俺を先輩呼ばわりすることから、こいつは1年の後輩なのだろう。ていうか名前何だっけ?

「…最初、一目見て、か、かかかっこいい人だな、とか思って、その後も先輩を見る度に見惚れちゃって、それからは先輩のことずっと追っかけちゃったりして、本当、どうしようもないくらい好きで…」

俺がイケメンなのはわかるけどストーカーは怖いから止めてよね。前置き長いから言い終わる前にこっちから先にフッてしまおうか。

「あのさ。」
「は、はははいっ!」

声をかけると吃りながら顔をばっと上げ、真っ直ぐ俺を熱の籠もった目で見つめる。俺とこいつの間ではものすごく温度差があるんだろうな。可哀想に。でもお前が女の子だったら良いだけの話なんだけどね。



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