小説 | ナノ



「で、結局お前は何でここにいんだよ?」

これで俺達は同じ質問をそれぞれ2回ずつしてしまったようだ。俺もさっきちゃんと答えてなかったしな。俺はなるべく平淡な口調で羽根に答えた。

「ラブレターもらったー。」

羽根はポカーンとした顔で俺を見て固まった。眠気が覚めたようで目を見開いたままだ。それでもイケメンなのが憎いよね。

「じゃ、そういうことだから。そこで人待たせてるからもう行くわ。」

しばらく凝視されたが、曲がって少し行ったところで1時間以上も俺を待っているだろう相手がいるので羽根の返答を待たずに歩き出した。これ以上待たせるのもどうかと思うしな。

「いやいや、待て待てっ!」

歩き出した俺を焦ったように羽根が俺の二の腕を掴んで止めた。そして掴んだ瞬間にはっとした表情になり、「あ、悪い…。」とか言って手を離した。何こいつ。俺が訝しげな表情をするが、羽根は再び焦った様子で言う。

「ラブレターって、誰からだよ?」
「知らない人。」
「知らない奴からなんておかしいだろ。なんか危ねぇし行かない方が良い。」

そうなのか。俺が過去にもらったラブレターのうち7割で知らない人からだったのだが。関わったこともない人を一方的に好きになるということは俺には理解し難いのだけれど、どうにも好きになってしまったみたいだ。俺イケメンだし。今回はそれが男からなのが気に入らないところだけど。

「大丈夫に決まってんだろ。さっさと終わらす。」
「…返事は?」
「は?俺が男なんかと付き合うとでも思ったか。」

何を当たり前なことを。聞くまでもないだろう。すると、羽根は安心したような残念がるような複雑な表情をする。さっきから表情がころころ変わるが、不良の気持ちはわからないなぁ。動揺しているのだろうか。そしてまたも表情が変わり、今度は切迫したような真剣な顔をする。

「で、でもな、制裁かもしれねぇだろ?」



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