be with you


 帰りにコンビニで買った割引のケーキを食べながら、ちょっとしたクリスマス気分を味わう。いつもなら文句を言ってくるはずの相手は今、画面の向こうにいた。
『続いてはKnightsの皆さんです!』
 紹介された彼らは、よろしくお願いしますと声を揃え挨拶をした。クリスマスイブの今日は、クリスマススペシャルを題して音楽番組で生放送が行われていた。今をときめくアーティスト達が出演する中、人気アイドルのKnightsがこうして出ているのは当然のこと。
『Knightsの皆さんはクリスマスの思い出って何かありますか?』
『私の屋敷では5mのChristmas treeを毎年Finlandから送ってもらっています』
『それは御曹司ならではのエピソードですね!』
『ス〜ちゃんはいまだにサンタさんに会おうとして夜更かししてそうだよねえ』
『子供扱いしないでください、凛月先輩! 私はSanta Clausを困らせないよう早めに寝るようにしてます!』
『そういうことじゃないと思うわァ……』
 彼等はこの季節に合ったロングコート衣装に身を包んでいる。お揃いの衣装でなく、各々に合ったデザインの衣装は彼等の個性をよく引き立てていた。
『瀬名さんは?』
『そうですね……小学生の頃、家族とクリスマスをハワイで迎えたことがありました』
『瀬名さんもお金持ちだったんですか!』
『かさくんに比べれば全くですよ。最近はありがたいことに忙しくさせてもらっているので、なかなか昔みたいにゆっくりは出来ないですけどね』
『そういえば明日も確かクリスマスライブをなさるとか……』
 司会者が振られると、泉はにこやかに答える。
『はい。きっとこの会場やテレビの向こうに、明日来てくださるお姫様達が、うわっ』
『お姫様達、絶対幸せな時間をプレゼントしてやるから楽しみにしてろよ!』
 泉の後ろからのし掛かるように肩を組んだレオ君は、カメラに向けてウインクをする。会場に女の子達の黄色い声が湧くが、私は不意を突かれ顔をしかめた泉に笑ってしまった。
『それではKnightsの皆さん、スタンバイお願いします』
 華やかなステージへ移動する騎士達。皆とても素敵だが、今日ばかりはつい一人に目がいってしまうのを許して欲しい。泉とは十二月に入ってから、ほとんど顔を合わせていなかった。私も年末ということで残業が続いたりで忙しくしていたが、人気アイドルである泉はそれの比ではない。年末の生放送番組や、年始特番の収録、それこそ言っていた通り明日クリスマスにはライブが予定されているからその準備など。文字通り朝から晩まで。帰る時間もないらしく、ほとんど事務所の方に泊まっている。
 曲中カメラに抜かれて綺麗に微笑む泉。それにつられて私も小さく笑う。寂しくないと言えば嘘になるけれど、こうして活躍する泉を見てるだけで元気をもらえている。それで十分だった。彼等が歌い終わるのと同時に、私もケーキを食べ終えた。売れ残りのクリスマスは私には甘過ぎたようだった。口直しにお煎餅でも食べようかと情緒のないことを考えた後、口うるさい彼を思い出して止めた。
 サンタさんを待っている歳ではないけど、私も司君を見習って寝てしまおうとテレビを消した。



 どうやら今年はうちにもサンタさんが来てくれていたらしい。
「おはよ」
 目を覚ませば、昨日画面の向こうに見ていた彼がいた。私の髪をすきながら撫でる優しい手つきのせいで、ふわふわしてまだ夢の中にいるよう。
「プレゼントだ……」
「寝ぼけてる?」
「いたっ」
 鼻をつままれ、目の前にいる泉が現実であることを認識させられる。けれどにわかに信じられなかった。
「どうして?」
「何が」
「仕事」
 昨日は夜に生放送があったし、今日はクリスマスライブがあるから朝から準備で立て込んでいるはず。それに家に帰ってくるなら、いつもは連絡を入る。だからてっきり昨日も事務所の方に泊まってくるかと思っていたのに。
 いまだに目の前にいる泉が非現実的な気がして、存在を確かめるよう頬に触れる。布団の中は暖かいけれど、そこから出ている肌は少しだけ冷えていた。私の手の熱を分けてあげようとぴたりとくっつければ、彼は心地良さそうに目を細めながら言う。
「少し時間とれたから帰れそうだと思ってねぇ。やっぱりうちのベッドの方が寝心地良いし……それに」
「それに?」
「んー……」
 何故かもったいぶり始めた泉は、頬に触れていた私の手に自らの手を重ね、そのまま手のひらを唇へずらした。乾燥した季節でも日々のケアを怠らない彼の唇はしっとりとしていて吸い付くよう。私の手のうちに、唇だけではむようなやさしいキスがおくられていく。
「泉?」
 それに、の続きが聞きたいのに泉の始めた行為が、言葉を紡ぐための彼の口を塞いでしまっている。続きを促すように指を動かしてみれば、咎めるように指がからみ、今度は指一本一本になぞるように唇がおとされた。見目麗しい彼がしているからか、一連の動作が神聖なものに見えて止めさせることが出来ない。しばらく好きなようにさせていれば、ようやく満足したのか泉は最後の指先に音を立てるキスをするとそっと離れた。目が合わさり、指に触れていた彼の唇がゆっくりと開かれた。
「それに、会いたかったから」
 先程の口付けのせいで、敏感になっている指先へかかる息がこそばゆい。そのくすぐったさが心臓にまで伝染していくものだから、くすくすと笑ってしまった。鏡がないから確認はできないけれど、今の私はきっと腑抜けきった顔をしているに違いない。
「私も会いたかった」
 私の答えに甘く微笑んだ泉だったが、少ししてふいと目をそらした。
「どうかした?」
「まだ気付かないかなぁ……」
 その言葉の意味を聞き返す前に、美しい顔が近付いた。キスされるのかとぎゅっと目を閉じるが、予想していた場所に唇は落とされなかった。代わりに鎖骨付近に柔かな感触と、それとは対照的に肌を滑るチェーンの感触。そこでようやく首にかかっていた存在に気付く。目線を自分の首もとに移せば、ピンクゴールドのシンプルなネックレスがそこにあった。
「……可愛い」
 ハートモチーフに、埋め込まれた小さなピンクの水晶はローズクォーツだろう。カーテンからこぼれた日の光が反射して、キラキラと輝いていた。
「俺から言うとか、かっこつかないじゃん……」
 耳を赤くした私の恋人は、クリスマスプレゼントでもありサンタさんでもあったらしい。
「すごく、嬉しい」
 どうしよう。昨日の夜はまさかこんな素晴らしい朝を迎えられるなんて思っていなかった。泉がいて、素敵なプレゼントがあって。積み重なっていく幸せでどんどん胸が満たされていく。
 私は絡められていたままだった泉の手を自分の口元に引き寄せ、先程の彼のようにではないがその指に軽く口付けた。言葉に出来ない気持ちを伝える私の行為。彼は僅かに驚いた様子を見せたが、すぐに手を握り返してくれて二人して微笑む。
「で、俺へのプレゼントは?」
 もちろんちゃんと準備している。ただ今日会えるなんて思っていなかったからクローゼットにしまったままだった。
「それなら今……」
 持ってくるよ、と続けるはずだった言葉は泉の唇によって呑み込まれた。久々の口付けは昨日のケーキとは比べられない程、甘ったるいものだった。始めは柔らかな感触を楽しむように唇を合わせられ、それが次第に甘噛みされるようになって。離れようにもいつの間にか私の後頭部に回っていた彼の手が逃げ場を奪う。下唇を軽く噛まれたせいで、つい開いてしまった口に彼の舌先がなぞるように動く。されるがまま、完全に主導権を握られていた。
 どれ程の時が経っただろうか。さすがに苦しくなって彼の胸を軽く叩けば、名残惜しそうにゆっくりとその唇が離された。私だけがあがっている息。目の前には満足そうな顔。
「まあ、悪くないかなぁ」
「……一応用意してあるんだけど、キスで十分だった?」
「両方もらうに決まってるでしょ」
「欲張り」
 そう言いながらも私は腕を泉の首に回す。彼からこんな素敵なクリスマスを贈られたのなら、今度は私の番。ご所望ならばそれに答えよう。
「ねぇ名前、もう一度」
 彼の言葉を、今度は私が呑み込んだ。
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