dolce log&take | ナノ



友達になろうか



日も傾いていて綺麗な夕焼けが射す頃にようやく練習が終わり、オレは帰り支度をしている時だった。

「どう、楽しいでしょ?サッカーって」
オレに柔らかな微笑みと共に尋ねてくる明るい赤髪のこの人は、かつて自分にとって“恐怖”でしかなかった人だった。その深い翠色の瞳に見下されれば威圧が凄まじい程感じられたし、この人が口を開けば優しい口調なのに何故か畏怖でしかない程、怖かった。
でも今、目の前で話している人はそうじゃない。対等な立場でいていいと言うし、オレに普通に話しかけて来るし、あれ程威圧を感じていた瞳は穏やかにオレを写し、見下したりなどしない。いちチームメイトとして扱ってくれている。
「はい、とても楽しいです」
でも、敬語はもう要らないと言ってくれたのについ敬語になってしまう。話す時はつい俯いてしまう。あの冷たく暗い瞳を思い出すと目線を合わせる事に躊躇いと恐怖を未だに感じてしまう。チームメイトとして後輩として可愛がってくれている事も感じていたし、以前の関係と今後の関係についても、友人として付き合おうと話してくれた。
「リュウジ、敬語はいらないよ?」
それでもオレの心の底奥深く根元から未だに“恐怖”は消えなかった。

「あ、ごめん、なさい、…きや…ま……さん」
オレのたどたどしい返答を聞いて「はぁー」と長い溜息をついた彼は、突然何かを思い付いたようにオレの前に左手を差し出す。
「手…?」
「ほら、手を貸して」
言われるがまま、彼の差し出す左手に自分の右手をそっと乗せる。すると少し力を込めて握られ、彼はいきなり足を進める。二、三歩遅れて縺れながらも、オレは手を引かれるがままに歩みを進める。
「どこへ?」
「…うーん、楽しい所?」
両脇に撥ねた赤い髪が歩く度に上下にひょこひょこと揺れる。オレの後ろに結った髪も揺れているのがわかる。
「円堂くんに教えてもらったんだけど、君にも教えたいと思ってね」
歩みを進める彼は本当に楽しそうな表情で語る。


坂を随分登り極めつけの階段を上がると、少し開けた広場に出た。夕日に照らされた町並みが見渡せるくらいの高台で、太い木が一本とその下にベンチ、は解るのだが、何故かその木には大きいタイヤがひとつぶら下がっていた。
そしてそこには、円堂キャプテンを初めとするイナズマジャパンの面々がいた。
「円堂くん達は、練習後ここによく来るそうだよ」
そうオレに説明して、オレの手を引きながら彼らの元へと歩み寄る。
「ヒロト!、それに緑川」
「彼にここを教えようと思ってね」
そう言って円堂キャプテンや皆の輪に入ってゆく基山さん。そういえばいつの間にか、手、離されていた。基山さんの手はとても優しいあたたかさを持った白くて綺麗な肌の手だった。グラン様だった頃は手が覆われていたし、そもそも手を握り合うなんて事は無理に等しかった。オレの手は基山さんの触れた所だけ、異様な熱を含んでいた。


それが基山さんのぬくもりだと知るのはもう少し先だったけれど。


「おーい緑川、サッカーやろうぜ」
「リュウジ、一緒にやろうよ、楽しいサッカー」
円堂キャプテンと基山さんに声をかけられ、2、3秒戸惑いつつも、その方向へと地面を思い切り蹴って向かった。











end









*****

元拍手文でした。
アニメに滾り衝動的に書いたものです。初基緑ですね。上司が友達に変わる瞬間。
リュウジが馴染めていない事をヒロトが思わず心配しちゃって世話焼いているとおいしいよねっていう俺得でした。


0504.追記

アニメでお互いの呼び方がまだ出ていない時に書いた為、「基山さん」「リュウジ」で呼び合っています。
今読み返すと気持ち悪い。



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