dolce log&take | ナノ
年賀企画 基緑文
「初詣行かないかい?」
もうすぐ年が明けるという、12月31日の午後11時半頃。 眠気を紛らわす為に持ち運び可能の小型ゲーム機に向かってタッチペンを握り、ベッドの上に座ったり寝転がったりしてヒロトとゲームをしていた時の事だった。
ゲームがひと段落ついたところで、ふと部屋にかけられている時計を見上げた後、ヒロトはゲーム機を閉じながらそう誘ってきた。 特に断る理由もなく、むしろ自分の脳を襲いかけている眠気も少しは覚めるだろうと思い、ベッドから立ち上がって了承した。
冬の夜は来ている上着をも貫くような寒さで、思わず巻いていたマフラーに口先を埋めてしまう程。 結い上げた自分の髪が微風にさらさらと揺れている。 手袋も持って来れば良かったと思いながら、上着のポケットに手を滑り込ませた。
「こういうのを二年参りっていうらしいんだ」 「へぇ…!」
二年参りは初詣のひとつの形式で、大晦日の深夜零時を境にお参りするところから二年に跨っていると考えられるらしい。 どうしてこんな夜中に初詣に行くのかという疑問を口にすれば、説明付でそう答えが返ってきた。
「ヒロトはよくそんな事知ってるな」 「前に父さんが教えてくれてね」
忙しい父さんとは初詣に行った事すらないけれど、と続けたヒロトの息は寒さで白かった。それが何故かすごく綺麗だと思い、自分もはぁあっと息を吐いてみれば、やはりさっきと同様に白くて。 そっと冬の夜の空気を吸い込んでみれば異様なほどに澄んでいるように感じられ、肺まで浄化される気分だった。空気に触れる頬や鼻先や耳が冷たくなっていて、先程まで感じていた眠気はすっかり取り払われている事にも気づく。
そうしてゆっくり歩きながら、神社に着いた頃には、除夜の鐘が夜空に響いている頃だった。
神社は夜とは思えないほど明るく、そして人で賑わっている。既に他の参拝者が作っている列の後ろに加わって、オレとヒロトは二人、氏神への参拝を待った。
「随分と賑やかなんだね」
除夜の鐘を聞きながら周りをきょろきょろと見渡して、オレはそんな感想を口から零す。
至る所で照らされたライト、行き交う人々、あたたかい食べ物を売り出す屋台。火燵の中でぬくぬくとしながら年越しのカウントダウン番組をつけたテレビをぼんやりと眺めて越す年越しを送っていたオレには、未知だった。
「うん、夜とは思えない」 「二年参りする人、結構いるんだ」 「俺も初めてだけどすごいんだね」
流石はこの辺で有名な稲妻神社といったところか、街中の人が集まっているかと思うほどの賑やかさだった。それ故に列も少しずつしか進まない。 寒さに耐えかねて、両手を口許に持ってくるとはぁあと息をかけてあたためる。そしてそんなオレの仕種を見たヒロトが、ふと口を開く。
「ごめん、急に『初詣行こう』だなんて誘って、寒い思いさせて」
少し行ってすぐ帰るつもりだったのにまさかこんなに人が集まる神社だなんて知らなくて。
そう言って微かに落ち込んだ様子のヒロトは、上着のポケットに突っ込んでいた手をそっと取り出して、そして。
「少し温かくなればいいんだけど」
オレの手を包み込むように、
そっと触れた。
その手は決してあたたかい体温ではなかったけれど、こちらに微笑みを向けるヒロトの優しさに胸のうちがどきりとしてしまうのは、そう。
以前からヒロトに好きだと言われていて、その答えを求められた時にオレは恥ずかしさ故にいつもはぐらかしてしまっていた。
それでも好きだと言ってくれるヒロトに、オレはもう何年も前から憧れとは違う感情を抱いていたのだけれど、男が男を好きだなんて変だと知ってからは、その気持ちに鍵をかけて奥底に封印していた。 だが確実に、その封印はだんだんと解かれていっているのも事実。
最近は何故か、ヒロトがオレにその答えを求める事はしないけれど。
そんな想いを抱く相手に、不意に手を触れられるなんて事をされれば、主に顔の熱が急上昇。
「…だ、いじょうぶ、だから!」 「こんなにも手が冷たいのに、大丈夫な訳あるかい?」 「う……」
尤もな事を言われ返す言葉が見つからず、そして恥ずかしさが勝ってオレは俯いた。 触れられている部分があたたかくて、そして羞恥も加わり、冷たくなった手はどんどん体温を取り戻していった。
やっとの思いで神様に参拝する順番になった時、もう殆ど通常の体温になっていた指先には、間違いなく離れていった彼の手のぬくもいが残っていた。
二年参りに願う
(今年は、想いを告げられますように)
(そして隣に居られますように)
10円玉なんかじゃ神様はきっと叶えてはくれないだろう願いを、オレはそのぬくもりが残る手を顔の前で合わせながら、そっと願った。
end
*****
という事で、改めまして… 明けましておめでとうございます。 去年は当サイトに足を運んで下さいまして、本当にありがとうございました。そしてお年賀企画に参加頂きまして非常に嬉しく思います。 今年もどうかARMONIOSO改め『dolce』と管理人の私流星舞 咲をどうかよろしくお願い致します。
文章の方は、この後すぐに「何お願いしたの?」とヒロトに迫られて緑川は告白しちゃう訳です。でもヒロトは「え、知ってるよ?」なんて答える訳です。緑川が好きでもないやつと初詣に行くとは思わないと基山が言ってました。 年頭から妄想だだ漏れで失礼致しました。ちなみに稲妻神社とは円堂御守のアレから使わせて頂きました。正月から本当にすみません…!少しでも萌えの手助けになれば幸いです。
ここを閲覧されている方のみに限り、この文章を1月15日までフリーと致します。お気に召された方いらっしゃいましたら、私の名前を添えて頂ければ結構ですのでご自由にお持ち帰り下さい。報告は任意です^^ 配布は終了しました。
それでは長々と、ありがとうございました。
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