dolce log&take | ナノ
南涼短編集
1日1文にて書いたもの総集編。
君に愛されたいが為
*涼野が女の子、南雲が出てこない
姿見に映るそれを見て思わず満足の笑みを零す。 くるりと一回転すれば、少し短めのスカートの裾がひらひらと宙を待って落ち着き、瞬きをすれば長い睫毛が娟かに艶めく。唇は光を浴びてみずみずしく潤い、頬にはうっすら桃色がのっている。少食で元々細いし、自分で言うのも自惚れているみたいだがスタイルに自信はある。ただ、胸の脂肪が少ないのは気にしてなくもないが…これならあいつも私に見惚れて、頭を地面に突き付けながら私を敬うだろう。…って別にあいつと待ち合わせして出かけるから頑張った訳じゃなく、えっと……そう、あくまでいち女の子としておしゃれを楽しんでいるだけだ。…あいつと二人きりで出かけるとか全く意識をしていない。 再び鏡を覗き込み、いつもと少し違う自分の姿にやっぱり微笑んでしまう。…これならイケる、晴矢はどういう反応をするだろうか…って違う違う!
時計を見るともう家を出るべき時間から10分経っていた。おしゃれに力を入れていたら時間を忘れてしまっていた。 急いで用意していたバッグを掴んで家を飛び出す。
そして駅前で待ち合わせる君の元へ自転車を飛ばした。
(……今日の私は可愛い…)
*****
お前に気づかれたいが為
*上のと対照、涼野が女の子、涼野出てこない
いつもより念入りに鏡を見つめる。もう少し右か、なんてハードワックスを人差し指で掬い髪に馴染ませる。いつもより何だか上手くいった気がする。 これで支度は整った。髪型はいつもと変わらないにしろ上手く出来たし、服装にだって気は使った。こっそりアクセサリーをつけてみたりもした。普段こういう事に気を使わない自分が、なぜ今日は気を使うか。そんなん知ったこっちゃない。でも何だか胸の内がざわざわと落ち着かねえ。ただあいつと待ち合わせて出かけるだけだっつーのに。こんな事に気を使ったってあいつが気付く筈ねぇ…って、別にあいつの為にやってる訳じゃねえのにどうして気付かれなきゃいけねーんだ。中学男子が街に出るからっつー理由で身なりに気を使うのは普通だよな?ほらよく色気づいちゃってうんたらかんたらってよく親とかが言うじゃねーか。 ワックスでべとべとした指を水で洗い流して鏡を再び見つめる。うんうん、俺いつもよりイケてね?…なんて思わねえからな…!あいつが全く気付かなくても別に何でもねぇし。…ただ一緒に買い物行くっつーだけだしな。
時計の針は家を出る時間の30分も前を指していた。早く起きすぎたか…。散歩がてら、今日は駅まで歩いてくか。
早く着きすぎるくれぇがいいんだろうな、待ち合わせは。
(……今日の俺はかっこいい…)
*****
待ち合わせ
*上の二つの続き *涼野が女の子
(やっぱ早過ぎたか…) ゆっくり歩いて少し遠回りをしながら来たにも関わらず待ち合わせ場所に20分も早く着いた南雲は、携帯の画面の数字を見て思わず小さい溜息をつく。 (何張り切ってんだか…) 朝、いつも学校は遅刻ぎりぎりまで起きない自分が、今日は早くに目が覚めてしまった。その事を親に驚かれて、更には鏡と見つめ合っている姿も見られて、母がにやつきながらこっちを見てきた。自分でも解らないくらい(いや解っているけれど『それ』を認めようとしないだけだ)とにかく変に力が入っている。まぁ、デートは15分前行動って言うしな…って、別にデートとかじゃねーし、ただ買い物一緒に行くだけじゃねーかよもう!!
仕方なくその待ち合わせの目印の公園のベンチに腰掛けた。空を見上げて見れば、今日は雲が全くといっていいほどの快晴であった。気温も暖かいし時間にも余裕がある為、何となく平和な時間が流れるが少ししていきなり着信音が鳴り、電話が来たので携帯を開く。かけて来たのは待ち合わせしている相手、つまり涼野だった。
『…もしもし』
「…よぉ、どした?」
いつもより遠慮がちな声が電話越しに聞こえる。 『晴矢、すまないが少し遅れそうだ』 「…オレもう着いてんだけど」 『そうか…じゃあ出来るだけ…急ぐ』 何だか普段より奥ゆかしさが伺える。いつもはもっとむかつくくらい上から目線だっつーのに。 「風お前、急ぐのはいいけど…その……事故とか気ィつけろよ」 『…あ、ああ。じゃあ後でな』 俺が返事をする前に電話は一方的に切れた。電話が終わってからふと思ったが、普段のあいつなら連絡もせずに堂々と遅れてくる筈だ。 今日は変にしおらしくて、余計に胸のうちがざわついた。
サッカーボール持って来りゃよかったな、なんて思いつつ、まだ耳に残った電話越しのそいつの声を脳内で再生していた。
*****
気まぐれか本意か
*風介独白
楽しいならめいいっぱい笑えばいい。悲しいならめいいっぱい泣けばいい。 嬉しいなら鼻唄を奏でればいい。つまらないなら楽しくなる事をすればいい。 心がからっぽなら歌って充たせばいい。心が痛いなら癒えるまで休めばいい。 幸せだと感じるならそれをまわりに振り撒けばいい。不幸だと感じるなら幸せを分けてもらえばいい。 眠りにつくならいい夢を見ればいい。眠れないなら夜空を見ればいい。
淋しいなら君のぬくもりを思い出せばいい 君の隣にいたいなら一緒にいればいい 君に触れたいならいつでも触れればいい
嫌ならその手を振りほどけばいい。
それでも君は握った手をきゅ、と握り返してきた。
気まぐれか、それとも、
君が好きだから、私は君を求める。
(変な期待はさせないでくれ)
*****
チューリップの恋模様
とうとう茎だけになってしまった。
毎朝学校へ向かう通学路の一角に咲いていたチューリップは、独特の赤い花びらで真っ直ぐ天に向かって伸びていた。風に吹かれても雨が降ったその翌日でも、茎は折れずに真っ直ぐとして赤い花を支えていた。それを俺は何気なく登下校中に一瞥していた。
それが今では見るも無惨に茎だけが真っ直ぐと伸びていた。 思わずその前に立ち止まる。
「晴矢…?」 登下校を共にする幼馴染みの風介が、立ち止まった俺を不思議そうに名前を呼ぶ。 「何をしている、早く行くぞ」 「あぁ…」 歩き出す風介に続いてまた帰路につく。
「チューリップ、散ったな」 そう話し掛けられて驚いた。こいつ、俺が何眺めてるか解ってたのかよ。 「隠さなくていい、私は晴矢の気持ちがよく解る」 「どういう意味だよ」 「君の頭のチューリップもいつか散ってしまうと懸念しているんだろう?」 肩に手を置かれて慰めてくるこいつが今ものすごく腹立たしい。 「いや、しねーよそんな心配。だいたい俺のこれは花じゃねーっての」 「チューリップに共感していたんだろう。安心しろ、これは私の胸の内に秘めといてやる」 そう言いつつくすくすと笑う風介に更に腹が立つ。こいつ絶対わざとだ。もうこれは言わせておくのが一番いい。
別に花に同情する訳じゃない。そんな優しい心は持ち合わせてない。 でも、たかが花に、俺は何故だか淋しさを感じた。花びらみたいにいつかは散り散りになってしまう…なんて重ねるのは、ひそかに抱くいつも一緒にいるのが当たり前のこいつへの恋心。
「…でも、ああいうのを見ると少し淋しくなるな」 ふいに思っていた事を、さっきまで人を見下しているような表情から一転、難しい顔をした風介がぽつんと呟いた。
「、…俺はずっと…」
そう言いかけて、止めた。 その先を催促されたが何でもないと、話題を今日の部活の話に変える。
私も、ずっと…
ふと見た風介の口許が、そう動いた気がした。
(しょうがないから隣にいてやる)
*****
マイナー思考
*学パロ、隣の席
「私は流行り物など興味ない」
頬杖をつきながらケイタイのボタンをかちかちと押す晴矢に、私は机に教科書類を終いながら続ける。 「私は皆が知らないような物の方が惹かれる」 ふと左隣の席の晴矢がこちらをちら、と一瞥して、また視線をケイタイに戻した。
「…ひねくれ者」
「ふん、ひねくれ者で結構だ」
お前にこの楽しみは分かんねぇよ、と呟く晴矢のケイタイ画面には、沢山の文字が並んだ所謂リアルタイム日記のようなものが映し出されていた。 だいたい日記など何が楽しいか私には分からない。書く事に困るし、面倒極まりない。それに楽しさを見いだせる目の前のこいつ含める世界の人々に、ある意味での尊敬を感じる。
もうそろそろで次の授業の先生が教室に訪れるという時間になり、晴矢はケイタイをぱしんと閉めて右腰のポケットに突っ込んだ。そして間もなく先生がやってくる。
「…なぁ、」
号令が掛かり規律をした私に小さく声をかけてきた。
「俺の事は、どうなんだよ」
お前の事?そんなの、決まっている。
「お前を好きになるやつなど、私の他にいる訳がない」
少し自慢げに行ってやる。すると聞かなきゃよかったと言わんばかりに顔を赤くした晴矢が、礼の後に着席してから、おめでてぇやつ、と呟くのが聞こえた。
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