dolce log&take | ナノ
綱立短編集
1日1文にて書いたもの総集編。
気温まかせ
最近やっと暖かくなってきたと思ったのに、と吐く息が白く広がり消えていくのを見て思う。今日は昨日と比べものにならないくらい気温が低く、これで下着の長袖Tシャツを着なくて済むと思ったのに、今日はそれを着込まなければ寒さに耐え切れなかったくらい冷え込んだ。冬は嫌いではないが、寒さは苦手だ。 何より体を動かし始めるまでが一番寒い。ユニフォームの上にジャージを着てるとはいえ、沖縄の冬の海の方が温かく感じる程、東京の冬は寒かった。
「綱海さん、いくら何でも寒がりすぎです」 練習前に立向居という人肌カイロの恩恵を受ける事をこの冬に学んだ俺は、立向居に後ろから抱き着く。最初こそは驚かれ顔を真っ赤にしていたが、だんだん俺を引きはがすのを諦めてまたですかなんて事を言う。
「しょうがないだろ、沖縄に比べて、」 「沖縄に比べられると日本全土が寒いですよ」 まぁ最もなのだが、俺はむしろそれならそれでもいい。
寒ければ立向居に抱き着く理由が出来るしな、なんて冗談混じりっぽく言うと、顔どころか耳まで赤くなる自分より体温の高い愛くるしい後輩。
暖かくなる事を望みつつ寒くなって欲しいと思っている矛盾くらい、自分でもとっくに気付いている。
*****
一方通行
*円風要素も微妙にアリ
はぁ、と大きな溜息が隣から聞こえた。俺より低い肩を更に落として不満そうな表情に、先輩として声をかける。 「究極奥義なんてそんな簡単に出来ちまったらつまんねーだろ。明日も頑張ろうぜ」 考え事をしてたんだろうか、はっと我に帰った立向居は俺の言葉に反応してこっちを向く。 「あ…いえ…その……この溜息はその事じゃなくてですね…」 少し困惑の混じった笑みをして、しどろもどろにそんな事を言った。 「違うのか?なんか悩みあんなら聞いてやるぞ?」 そう促して、立向居の口から出てきたのは「円堂さん」だった。 立向居から円堂にベクトルが向いてる事くれぇ何となく分かっていた。憧れの眼差しを向けていたのは、キーパー同士だからだけではねぇ事も何となく察せた。俺が雷門イレブンと出会った時から既にそうだったのは、他の奴らや立向居のフットボールフロンティアの熱弁で理解した。 だがそれは一方通行のベクトルだ。円堂もまた、ベクトルを向ける相手がいるらしい。しかも話によると頼れる世話好きの幼馴染みだと言う。雷門の一員である意味裏キャプテンだという話を聞く限りではどうしてキャラバンに乗ってねぇかは解らねぇが。 とにかく立向居は完璧な一方通行だった。それを考えていて溜息が漏れたと言う。 でも俺はそれを応援する事も、的確な助言をする事も、協力してやる事もできない。俺自身のベクトルは海の広さに比べても受け流せねぇもんだから。 俺は立向居が好きだから。
はぁ、と思わず大きく溜息を漏らす。すると今度は「どうしたんですか」と隣から問われた。 「ベクトルがいつまで経っても交わらなそうだなってな…」 交わらない想いの行き着く場所はどこなんだろうな…
(俺がお前で、お前があいつで、あいつは…)
誰か、このベクトルの永遠ループを抜け出す方法を知らねーか?
*****
淡い恋心ってこんな感じですか?
気がつけば、俺の目線が自然と追いかけていた。日に焼けた艶のある浅黒い肌に、珊瑚色だと自分で言っていたその綺麗な髪色は、とてもよく映える。出会った時にしていたサーフィンでも、青々と澄んだ海のど真ん中に水しぶきを浴びながら映えるその色に思わず見とれた。 練習に付き合ってもらうようになって、その人の心の広さと器の大きさに何度も助けられた。俺を後輩として可愛がってくれているのを感じ、無性に嬉しくなった。
円堂さんを慕うのとはまた別の、憧れの感情が自分の中で芽生えているのがわかった。
「立向居、危ねぇ!!」
その声には、と気付けば、急に来たボールに反応できずに胸の辺りに直撃してゴールへ押しやられた。 「立向居!!」 大丈夫かよ、と駆け寄ってきた綱海さんは俺を支えて起こしてくれた。 「す、すみません」 「お前、集中しねーとケガすんぞ」 「はい、」 綱海さんの必殺技『ツナミブースト』に思わず見とれてしまった事なんて、恥ずかしすぎて言えたものじゃない。 「すみません」 もう一度謝ると頭を撫でられる。 「立向居が無事なら構いやしねーよ」 大丈夫か?と聞かれ、大丈夫ですと笑顔で答えれば、綱海さんはよし、と言ってボールを蹴る定位置に戻った。
もっともっと、ずっといつまでも、この二人の練習時間が続いて欲しいと思ったのはここだけの話。
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