dolce text | ナノ



婚姻届なんて要らない

いい夫婦の日記念



*大学生パロ
*二人暮し設定

















子供連れの微笑ましい家族や老人夫婦などが入り混じる中、俺達は二人でかごを片手に持ち、野菜やら果物やら加工商品やらが並べられている店内を見ながらゆっくり奥へと進んでいく。

「豪炎寺、じゃがいもは?」
「確かまだあった筈だ」
「でも玉葱は切らしてたよな」
「あぁ」
「じゃあ一袋買っていこう」

棚に無造作に並べられた、玉葱が四、五個ほど入っている透明な袋を一つ手に取り、かごに入れる。その分の重さだけかごが少し傾く。

「風丸、果物は何がいいか?」
「季節的にはリンゴだな…」
「これでいいか?」

そう尋ねてきた彼の手に提げられたリンゴが三つほど入った袋を見て、俺は大丈夫だと首を縦に振る。
そのリンゴ達は、今度は彼の腕に掛けられたかごに入れられた。

そうして二人で吟味した店内の商品がそれなりに詰まった二つのかごをにこやかに接客する店員のレジに通し、会計を済ます。今回はいつもより安く済んだな、と思いながらスーパー袋へと商品を二人で詰めていった。


男の二人暮らしとあって食品の買い物はそれなりに量が多く、平日は大学やバイトでお互い忙しい為、週末は二人で買い出しに行くのが慣わしになっていた。

そんな、俺達の日常に埋め込まれたある週末の、何気ない買い物。

でも、その何気ない日常を共有するささやかな幸せが、俺は好きだった。




買い物袋を俺は左手に、豪炎寺は右手に提げて二人で店を出れば、既に日は傾き始めていた。

俺達は肩を並べ、二人で生活を共にしているアパートへ足を進める。
古くて壊れかけの、という訳でもなく、だからと言って一般家庭の一軒家みたいな豪華なものではない、単なる普通の清潔感あるアパートだった。
二人で捜したその物件は、医者の息子である彼のおかげで学生には少し見合わない贅沢な住まいだろうけれども。

他愛ない会話をしつつその二人の住まいへ向かっていると、もう何度彼と共に歩いたか知れない街の大通りに差し掛かった。
傾いた橙の光が俺達の影を、舗装されたアスファルトの道に長く映し出す。ふと空を仰げば、既にちらほらと輝き始めている星が目についた。

「そういえば、ここの道は豪炎寺と帰った日によく通ったっけ…」
「あぁ、夕香の見舞いの時だ」

雷門中からは河川敷の道を通って帰るのが一番近道であるが、まだ夕香ちゃんが入院していた頃、豪炎寺と共に病院に向かうにはここの道をよく使っていた。

「そういえば、夕香ちゃんは元気にしてるか?」
「最近は学校が毎日楽しいそうだ」


これはまだ俺達が雷門中学に通っていた頃の事。

夕香ちゃんに是非会わせたいという事で豪炎寺たっての希望で共に彼女の病室を尋ねた事がある。そしてすっかり気に入られてしまった俺は、夕香ちゃんが退院するまで彼と共によく病室に赴いた。
絵本を読んだりお絵かきをしたりと部活帰りの少しの時間だったけれど、彼女はとても満足してくれた。そんな彼女の兄である豪炎寺は、そんな俺と夕香ちゃんを慈しむように眺めていたっけ。

なんて思い出し感慨深い気持ちに浸っていると、ふっと微かに微笑んだ豪炎寺がそういえばと呟いた。


「昔、まだ小さかった夕香が言った事を思い出した」
「何だ?」

「俺は夕香のお父さんで風丸はお母さんだ、と」


「…なっ……はぁ…?!」

あまりの衝撃発言に自分に驚き声をあげながら右隣りを見れば、急にぐいと捕まえられた、スーパー袋を提げていないほうの右手。
同じくスーパー袋を持っていない彼のその左手が、そっと指を絡めてがしりと握ってくる。

無意識に熱が上がっていく顔を隠すように、俺は左下側に俯いた。

彼とはもう何年もこういう関係にある訳で、つまりは一線をも既に越えているというのに、こういう不意な事にはいつまで立っても慣れないのだ。

「嫌、か?」
「…そんな訳、ない…だろ」


昔からよく整った顔立ちと長髪で女として見られコンプレックスを感じていた自分。
だが彼となら恋人だろうと夫婦だろうと、女に見られる事を許せてしまう。


それは自分が唯一心を許した豪炎寺、

だからだ。


右手にきゅっと力を込めれば、更にふっと微かにだが笑った彼がふと立ち止まって、額に触れるだけのキスを落とした。




婚姻届なんて要らない


(だって俺達はこんなにも幸せ、)


俯きながらも相変わらずかっこいい横顔を見遣れば視線が絡む。そしてお互いに忍び笑いをしながら、再び帰路へと歩みを進めた。










end









*****

大遅刻いい夫婦の日!念願の豪風が書けて満足です!需要?完成度?そんなの気にしたら負け!←
夫婦らしい事はなんだろうと考えていたら、買い物行ってたらいいなと思いまして。豪風は大人っぽいあの雰囲気が大好きです。初の豪風なのに大学生パロとかお粗末さまでした。もっと豪風書きたい…!


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