dolce text | ナノ



残った2人のお話



空が、眩しかった。
雲が、美しかった。
鳥が、羨ましかった。

俺には空に浮かぶくらいの軽い体を持ち得てないし、羽ばたく為の翼もない。当たり前の事だけど。

だから今の俺にとって、空は物凄く遠い存在。
ちょうど、四角い液晶に映し出された彼らがサッカーをプレイしているみたいに。


俺は通院している病院の敷地内にある、日のよく当たるベンチに腰掛けて、そこにもたれながら遠い遠い空をぼんやりと眺めていた。


「あ、緑川くん!」

少し遠くの方から穏やかな声音で名前を呼ばれ、そちらを向けば、松葉杖を脇に抱えながらこちらに手を降る一人の姿。

「吹雪…!」

ベンチから立ち上がって彼の元へ駆け寄った。まだ覚束ない松葉杖の扱いは、見ていて危なっかしい。
「荷物、持つよ」
「ありがとう」
そう言って吹雪の荷物を受け取る。これもお願い、と、ひとつの少し分厚くなった封筒を渡された。

「…手紙?」

「うん、差出人の所、見てみてよ」
先程座っていたベンチにゆっくりと向かいながらそう言われ、封が綴じられている部分の下の方を見ると…
「…響監督…から…」
「うん。僕と緑川くん宛てだよ」
なんの心当たりもない俺達宛ての封筒を見つめ、その少し分厚くなった中身は何が入っているんだろうかと気になった。



二人でベンチに腰掛け、その封筒を綺麗に開けていく。
中に入っていたのは、何枚もの紙が重ねて折られて束になった便箋。よく封筒に納められたな、と思わず苦笑してしまうくらいの枚数のそれを一枚一枚開いてゆく。

「これは…皆からの手紙?」
「みたいだね…!」
一人一枚ずつ、俺たちそれぞれに手紙が書かれていた。吹雪宛ての紙をはい、と渡して、各々それに目を通す。



「染岡くんなんかいつも僕にメールくれるのに、何だかわざわざ手紙って嬉しいよね」
手紙を読みながら、吹雪はそんな事を口にした。そんな彼の横顔は何となく哀愁が漂っている気がして。


字は人を表す、というがまさにその通りだった。
字が綺麗だったり、大きかったり小さいかったり、その人らしさを強調させる手書きの文面は、少しずつじんわり心に熱を染み込ませる。


その中のひとつ、ヒロトからの手紙は、たった一言。

『オレ、待ってるから』

少し小さめで綺麗な字で書かれたそれを見て、思わず目頭が熱くなって。
いつもメール、時々電話をくれる彼の直筆。その一言に込められた思い。


空を見上げた。
目から落ちる雫でその手紙を濡らさないように。



見上げた空は、


空は、眩しかった。

「ねぇ吹雪、空って案外近いんだな」


俺の手の届かないくらいに物凄く遠い存在だと思っていた。

でも、ほらもう、こんなに近くに。










end









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イナイレ3発売記念!日本に残った2人のお話です。
といっても、管理人の趣味丸出しですね…染吹に基緑。二人の心の支えは遠い地の異国で活躍する二人の姿や言葉だと思うんです。離れていても、否、離れているからこそ余計に想い合えばいい。

カウントダウンお付き合いいただいた方、ありがとうございました。書き慣れていないキャラクターに挑戦できて、楽しかったです^^