dolce text | ナノ



甘美なチョコレート



下校中、俺の左隣を歩いていた佐久間が突然俺の前に立ち塞がって、俺は睨みつけられる。日焼けていて少し黒く艶のある肌が夕焼けのはちみつ色で更に艶を増し、そんな佐久間に見惚れつつ何かしたかと心当たりを探っていると、首の後ろに手を回され俺は屈んだ状態になって、いきなりお前からのキスをひとつ。
そいつの舌が俺の口内の入り口に少し触れて、そしてすぐ離れる。普段は佐久間から、しかも外でなんてありえないから変に嬉しくなる。佐久間からのキス…なんて舞い上がったのも一瞬で、そいつの表情は曇っていた。今にも泣きそうな左目で俺を更に睨みつけた。

「…お前、チョコ貰ったな。しかも食ったな」

今日は2月14日、つまりバレンタインデー。自慢じゃないが毎年何人かの女子からチョコレートを貰う。といっても丁寧に断って気持ちだけ貰う形で、今年も何個か貰ってそれをさっき食べた。

「だって…貰ってやんなかったら可哀想だろ?」

俺のその言葉を聞いて、佐久間は前を向き直してすたすたと先を歩いていく。どうやら俺が女子からチョコレートを貰ったことが気に食わないらしく、更にその貰ったものを食べたことで腹を立てたらしい。怒って前を歩く背中を眺めながら、それは自分に対する嫉妬の気持ちから来ていることに嬉しくなる。
意地っ張りでわがままで、気が強くて素直じゃない佐久間からの愛情表現などは殆どなく、いつも自分からすることが多かった。不安にならないと言えば嘘になるが、こういう普段態度にしか現れない様な下手な愛情表現のほうが佐久間らしくていいと思った。
「…源田の…ばぁーか!」
大声でそう言い放って走って行ってしまう。
「おい佐久間、ちょっと待て…!」
追いかけたものの、流石は帝国サッカー部が誇るFWだけあって、俺が追いつくのは困難だった。まぁ見失っても、佐久間の行く所くらいは見当がつくが…。



「やっぱりここにいたか」
佐久間が何かあって来る場所といえばここしかなかった。そしてここは二人だけしか知らない場所だった。
「久しぶりだな、ここ」
そう言って辺りを見渡しながら、佐久間の座っているところへ歩いていく。怒っているのか、相変わらず背中をこちらに向けていて顔を見せてくれない。
「何年ぶりか?」
「…中学入る前だろ、最後に来たの」
そこは、少し開けていて周りは使われていない建物が立ち並び、まだ使えそうな古びた廃品が無造作に転がっている。中学に上がる前はここの廃品を使って、秘密基地を作って遊んだり、障害物を作ってサッカーの練習をしたりした。
「そっか。中学に入ってから忙しくて来れなかったもんな」
背中を向けたまま返事をする佐久間の隣に腰掛けて、肩を自分のほうへ引き寄せる。夕日が建物と建物の間を縫って差し込み、僅かにひとつに繋がった陰を作った。

「佐久間、悪かった」

「ばーか…」

「これからは、貰い物も断る」

「ばー…か…」

「俺には、お前がいるもんな」

「…ば…か」

俺の腕にしがみ付いて顔を隠し、静かに啜り泣く音がする。俺は、しがみ付かれている腕とは反対の手で佐久間のさらさらの長い髪を優しく梳く。泣かせちまったな…なんて少しの後悔と、嫉妬してくれたという不覚な喜びが内に渦巻く。それは佐久間が何よりも大切だから、なんて、恥ずかしい事を口に出来るのも佐久間にだけだな。



しばらくして落ち着いたらしい佐久間は、俺の腕から離れて自分のバッグを何やら探り始める。
「おい源田、こっちむけ」
まだ赤くなっている瞳でそう言われるがままにすると、何かを口に含めて両手で俺の顔を引き寄せ、また不意に口付けをされる。と、口の中に甘くとろーっとしたものを押し込まれる。咄嗟にこれはチョコレートの味だと分かったときには唇は離されてしまう。
「…チョコ…お、俺からお前にくれてやったんだからな」
目をそらし頬を染めて俯く佐久間に、思わず俺は精一杯の力で抱きつく。痛いと文句を言われても、不器用なお前の行動には毎回参ってしまう。


こんなにもお前が可愛いなんて。

しばらくこの手の力を緩めることは出来無そうだ。











end









*****

大遅刻の源佐久バレンタイン小説でした。念願の源佐久だよ!!源佐久いいですね^^
前から書きたい書きたいとは思っていたものの手を出せず…パソコンでだらだら書いていたのでグダグダ感溢れていますが、ご了承くださいませ…!汗
タイトルがひどいですね。あと途中の秘密基地やら小学生のときなんたらってやつは捏造です^^
佐久間は不器用すぎて普段は源田が一方的な愛情表現していますが、何かの弾みに佐久間が本領発揮して大胆になって、源田がたどたどすればいいと思いました。うん長い。
源佐久もっと書きたいです。おいしい。大遅刻でも口移しチョコ書けて大満足でした。


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