dolce text | ナノ



サッカーに恋する君に恋した



*風丸がサッカーしてない。陸上部。
*フットボールフロンティア優勝後
*脅威の侵略者来てない
















最近、放課後になると校庭のグラウンドの方が騒がしい。
それもその筈、あの弱小と謡われていたサッカー部がフットボールフロンティアというかなり有名な大会で優勝した。つまり日本一のサッカー部になったのだ。グラウンドの反対側のトラックで練習をする俺達陸上部にまで、その歓声はよく聞こえる。
俺達陸上部も日本一のサッカー部には及ばないにしろ、サッカー部が力をつける前までは校内一期待をされている程の実力を持つ部活だった。
「今日もサッカー部の方凄いですね。この前までうちを応援していたのに」
スパイクの紐を結んでいる為にしゃがんだ俺に、同じく陸上部の後輩である宮坂が嫉むように話しかけてくる。
「しょうがないじゃないか。サッカー部も頑張って練習して勝ち抜いて、日本一になったんだからさ」
「そうですけど…」
紐を結び終えて立ち上がり、始めようか、と促して準備体操をした。


すっかり遅くなってしまった。練習が終わった後に自主練をして帰路につけば、空には既に星が輝き始める頃だった。帰り道の途中に通る、河川敷のサッカーコートの川が近い方に、ひとつの影を見た。それが直ぐに円堂だと分かると、俺はサッカーボールに座っているそいつに近付いて行き肩をぽん、と軽くたたく。
「円堂」
俺が近付いている事に気付かなかった円堂はびく、と体を軽く跳ねさせ、俺の顔を見ていう。
「…風丸」
「どうしたんだ、こんな所で。日本一のサッカー部のキャプテン」
「…俺達、本当に日本一になったんだよな…」
しみじみとそういう表情には、どこか切なさを帯びていた。
「お前と『じいちゃん』の夢じゃなかったのか?」
昔から毎日のように、フットボールフロンティアに出場して優勝するんだ、と威勢よく宣言していた事を思い出しながら問いかける。そしてそれは、サッカーを志半ばにして事故で亡くなってしまった祖父の夢だと自慢気に語っていた事も思い出す。
「そうなんだけどさ…」
何だかいつもの円堂らしくないことに俺は少し戸惑いを覚える。
「何かあったのか…?」
問うと、川の水が流れる方をぼーっと見つめながら口を開く。
「夢を見たんだ。風丸がサッカー部に入ってる夢」
「俺が?」
聞くと、俺はサッカー部がまだ弱小と呼ばれていた頃から、部員数が足りない為困っていた円堂に声をかけられ助っ人として入部し、大会でも円堂と共に戦ったらしい。確かに部員数に困っていて声をかけられた事はあったが、陸上部があるからと断ったのが現在だ。
「でも、お前が夢なんかを気にするなんて珍しいな」
普段細かい事を気にしない(というより気にならない)円堂にしては珍しく曖昧な事だった。幼馴染みとして相談された事も多々あったがその殆どがサッカーに関するもので、俺はその背中を押すだけのものだった。
「妙にリアルだったんだよ、それが」
夢はその人の心理状況を表すと言うがその夢は円堂の願望なのだろうか、などと自惚れた考えをついついしてしまう。
「夢では風丸がいて皆がいて、何回ボロボロになっても立ち上がって、皆が俺を励ましてくれたんだ、」
でも、と言葉を区切る。
「夢にいた風丸だけがコートにいなくて…って当たり前なんだけどな」
やっぱ何でもねぇとこちらを向いて笑って言う。その笑みに切なさを感じた俺は、心を絞るような苦しさに苛まれた。
「でも、ついつい同じフィールドにお前が居てくれたら、なんて思っちゃうんだよな…」
つまり、円堂は俺とサッカーがしたいが、俺は陸上部がある為に迷惑かけたくない、と言う事か。
それは憧れとも友情とも似つかない感情。気付けば目線はいつも円堂を追いかけていた。自覚したのは随分前の事。どうして誘われたあの時サッカー部に入らなかったのかと後悔する日もあった。
だか、神様だか仏様だか誰だか知らないが再びチャンスを与えてくれたんだ。俺はこいつが望んでくれる以上の何が必要なんだろうか。

「あのさ、円堂」






入部届けを1枚、くれないか?










(俺はサッカーにひたむきなお前が好きなんだ)
(友達としてでなく、幼馴染みとしてでなく)


(それが言えるように、まずはサッカーを知ろうと思うんだ)











end









*****

風丸さんがサッカー部に入ってなかったら…でした。
今まで円←風の一方通行しか書いてない感じだったのですがこれなら円風といえるでしょうかね?幼馴染みで今までずっと近くだった分部活が離れて何か足りない気がして、それが風丸だったと円堂が気づけばいい。純粋に風丸が好きだから近くがいいってのもアリだと思います。
三期で騒がれている中、空気読めずに一期ネタすみません…


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