dolce text | ナノ



伝われ、伝われ、この想い



渡そう、渡そう、そう朝からずっと思っていて、今は放課後。グラウンドに橙の鮮やかな夕日が差し込んでいる。
思えば、休み時間や昼休みや部活前など機会はいくらでもあったのに、勇気がなかった。部活も既に終え、あとは帰宅するだけだった。
未だ渡せずにいる、自分のエナメルバッグに入った“想い”の詰まったひとつの箱にバッグの中で触れる。

あいつに渡さなきゃ…

機会は大勢の目に触れないように二人きりの時、しかも男が男にチョコレートを渡すなんて世間体が良くないのでなおさら慎重に周りには気を使うべきだ。そして何より恥ずかしい…。その為には一緒に帰ることがやはり一番いいと考え、いつも通りごく自然を装って、帰りの私宅が出来た所を見計らい声をかけた。
「あの…さ、円堂、一緒に帰らないか?」
大丈夫だ、ごく自然、いつもの風景。そう自分に言い聞かせて落ち着けようとしても、逆に変に意識してしまって何だかぎこちなくなる。
「どうしたんだ風丸、改まって」
どうやら向こうは既に俺と帰るつもりでいたらしい。いや別に、と答えて少し嬉しくなる自分を隠しつつ、エナメルバッグを肩にかけた。俺は歩き出す円堂に合わせて、隣を歩いた。



帰り道は、途中河川敷の土手を通る。その為、俺たちの練習場所のひとつである河川敷のサッカーコートに立ち寄った。コートを見渡すように草むらに座り気の済むまで語らう、それがお前と幼馴染みであることの特権だった。俺が陸上部だったときも、今も、それは変わらない。そして今日も、自然に草むらに腰掛けていた。
相変わらず沿道の口から出ることはサッカーの事だった。どこまでもサッカーというスポーツを愛し、サッカーができる喜びに満ち溢れ、仲間と共にプレイする素晴らしさを教えてくれる。『サッカー馬鹿』が褒め言葉のように、まっすぐなやつ。円堂の魅力はそういうところにある。

だが、サッカーの話じゃどうもチョコレートを渡せる雰囲気とかではなく、とうとう話のきりの良い所を見計らって自ら話題を振る。
「なぁ円堂、今日、誰かからチョコ貰ったか?」
そういうと、自分のエナメルバッグを探って何か取り出した。
「マネージャーが皆に配ってたやつなら、ほら、」
今日はバレンタインだからと、マネージャーが皆に配っていた箱を見せて言った。
「それは俺も貰ってるって…」
「ははっ、だな」
そう答えて手に持っていた箱をバッグにしまい、お前は、と言う声が聞こえた。
「貰ったのか?誰かから」
「あぁ、陸上部の後輩達から義理チョコを」
そう言ってバッグからそれを取り出そうとし、バッグから手を出すと同時に、こいつにあげるために入れておいた箱がバッグから落ちる。
「これ…は?」
自分で手に持っている陸上部の後輩達から貰ったものとは違う、そのラッピングが施された箱を見て、尋ねられた。


渡すときは、今。

…もう、覚悟を決めるしかない。


そう思って、箱を拾って円堂の前に差し出す。恥ずかしくて顔を見れたものじゃない。顔が熱い。
それでも伝えなければ。
「これ、…お前に…」
こういうのに疎いやつだから、俺の好意なんて知る由も無いだろう。でも、バレンタインデーにわざわざ男がチョコレートをあげるなんて、つまり円堂、お前に好意があるからとか、少しくらい察してくれてもいいだろ?
「…俺に?…風丸が?」

「お前が…好きだから…」
もう何度お前にこの言葉を言っただろう。何度『好き』の意味を勘違いされただろう。

「友達としてではなく、ひとりの人間として、…お前が…」





伝われ、伝われ、この想い。











end









*****

バレンタインデー小説でした。
これ、実は風丸さんがマネ協力の下に女装してチョコ渡す話とどちらにしようか迷いました、本気で。女装似合いすぎて円堂が女装してるとかに気がつかないよっていうオチ\(^o^)/
でも健気な風丸さんも書きたかったので、結局こっち。
陸上部の後輩が宮坂だったらいいなとかごにょごにょ…宮坂だったら義理じゃなくて本命です!ってなりそうだな…いや、なる。
マネージャーも約2名、キャプには本気ですねきっと!頑張れ恋する乙女達!!(そこに風丸さんも含まれますね^q^←)



以下続き的なもの。
別に読まなくってもいいです。
オチは予測してるとおりだと思います^^















「風丸…」
円堂は俺の差し出した箱を受け取り、俯く俺の顔をあげる。
「ありがとな、俺もお前のこと、ひとりの人間として好きだぜ!」
「え…んど…」
「だってさ、お前すげーじゃん。いっつも練習頑張ってるし、俺のこと気使ってくれるし」
「えんどう…!!」
「風丸も、みんなも、大好きなんだ!」
「…みんな?」
「チョコありがとな!これからもよろしくな!」
「…」
そう言いながら目を輝かせる円堂に、俺はもう何も言うことが出来なかった。

(「愛してる」くらい言わないとダメなのか…?!)





*****

伝わらなかった…風丸さんの切なる想いは円堂に伝わらなかった…というオチ\(^o^)/
男からチョコとか円堂は気にしない、というか気にならない。ウチの円風は風丸さんが報われません。円風というより円←風。
それでも健気に頑張る!頑張れ風丸さん!
別のオチで、豪炎寺からも鬼道からもヒロトからも貰ってたというのも…アリですよね。
ここまでお付き合いありがとうございました。


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