dolce text | ナノ



すがるようにキスして



コンコン、

部屋のドアが叩かれる音がして、ベッドの上でうとうとしていた俺はそのノック音で頭が少し覚醒する。

上半身を起こしドアに向かって「誰だ」と気怠く放てば、弱々しく自分の名前を呼ぶ声が微かに両耳の鼓膜を震わせた。
枕元の目覚まし時計に目をやれば、既に夜中の二時半を過ぎていた。こんな時間に何の用かと目を擦りながら部屋の電気をつけてドアに近づき、ゆっくりとドアノブを引く。

すると、薄暗い廊下には、顔を俯かせた風介が立っていた。


そして突然、俺の右肩に顔を埋めて体重を預けられる。当然驚く俺。おかげで眠気がすっかり消えた。

「…風介?」

この状況をどうすればよいのか解らない俺の手はただ宙をさ迷うのみ。

「おい風介、どうした?」

自分の右肩に乗る頭に話しかけても何も答えない。その代わりに手を背中に回され、ぎゅううっとしがみつけられた。
ますますどうしていいか解らなくなった。こいつ、なんか変なもんでも食ったのか?

「なぁ、とりあえず部屋入るからな」

どうしようもないので部屋にこいつを入れようと、俺はしがみつかれている身をゆっくり引き下げる。そうして俺に体重を預けている風介を部屋に入れ、扉を閉めた。



「なぁ、どうしたんだよ?」
再び、そう尋ねる。すると背中に回されていた手が解けて、両頬に包まれるように触れられた。そして引き寄せられ、いつの間にかこちらに向けていた顔を近づけられる。
ゆっくり瞼が閉じられる。長い睫毛は、光を反射して艶めき、そして雫で濡れていた。

唇にあたたかな感触。
すぐに離れたと思ったら空気を含んでまた塞がれた。少し斜めに噛み付かれるように重ねられて、柔らかい舌が侵入してくる。迎え入れて絡めれば、シロップより甘い熱を含んで互いの唾液を味わい合う。

息が苦しくなり始めた頃にそっと離れた唇と唇を繋ぐ銀色の糸を、風介がぺろりと舐めとる。俺の頬に添えられていた手が優しく離れていく。
まだ近くにある瞼がそっと開き、瞳に溜まっていた雫が頬を伝っていた。

風介は、泣いていた。


やっとそれに気付いた俺は、右手でそっと涙を拭う。それでもぽろぽろと零れる滴は俺の服に染みをつくってそこを濡らした。
また右肩辺りに顔を埋め、首の後ろに手を回されて力を込めて引き寄せられる。

そして鼻を啜るような音が微かに聞こえてきて、俺は細いその身体をそっと抱きしめた。



「なんでも、ない」
「泣いてたのに何もねー訳ねぇだろ」
「…なんでも、ない…」

しばらくして身体をそっと離した風介の涙は止まっていた。
二人ベッドに腰掛け、俺の惰眠を妨げた理由を風介に問い出す。だが風介の口から発せられるのは「なんでもない」の一点張りの言葉だった。

「俺を起こしといて、それはねーだろよ…」

なぁ? と尋ねれば、少し戸惑ったように俯き加減で、風介がぼそりと呟く。


「ただ、昔の夢を見ただけだ…」

「本当の親の、だ」

そう言って腿のズボンを両手でぎゅうう、と力いっぱい握る。

「…ただ、それだけだ」

決まりが悪そうに俺と逆の向きに身体をずらし背中をこちらに向けて、そう呟いた。
そういう事か、とその淋しさを感じる背中を見つめて思わず口端が上がる。

(ったく、淋しいならそう言やいいのにな)

そっと近づいて、その背中に抱き着く。


「俺は、どこにも行かねぇよ…」

耳許で囁けば、冷たい体温の風介の顔が赤く染まっていくのが伺えた。











end









*****

フリリク用で書いてみたけど話逸れたので普通に書き上げてしまいました。涼野が迫る南涼も凄くいいと思います。
晴矢は夜遅くまでゲームとかして起きてそうです。ゲームやめて寝るかーって時に風介が来てこんな感じになってるといい。
風介の親のお話はあえて出しませんでしたが、小さい頃母親とかに「どうしてこの子産んじゃったんだろう」と常に呟かれていて、次第に心を閉ざしていった風介をお日さま園で引き取った、っていうのを前提に書いてみました。この事情は晴矢も知ってるみたいな…。
その夢を久々に見て、何となく寂しくなった風介が晴矢を求めればいいな…と^///^
久々の南涼文でした。

title by 確かに恋だった


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