dolce text | ナノ



期間限定の恋



俺の隣を歩く赤髪の恋人の考えていることはよく解らない。よく解らないけれど、そんな所に魅力を感じる自分自身も解らない。
僅かな身長差分を見上げて眺めていると、それに気付いてにこりと笑った。それだけで顔の熱が騰がるのを感じるのに、どうしたの、なんて言われて覗き込まれたら自分でもどうしようもないくらい脈が上がる。


こんなに彼を変に意識してしまう事の発端は数日前のヒロトの発言だった。


「ねぇ、緑川は好きな人いるの?」

そう尋ねられ、父さんや砂木沼さん、瞳子さんなど、自分の大切な人の名前をいくつか挙げると、違う違うと笑われた。

「そうじゃなくって、恋愛の意味で好きな人、」

いる?と聞かれ、何でそんな事をいきなりと少し戸惑ったが「特には…」と答える。すると「そうなんだ、なら」と俺の耳許の髪を左手に絡め、反対の耳許でそっと囁かれる。


『期間限定』で俺の恋人になって欲しいんだ


一瞬、ヒロトの言葉の意味が理解出来なかった。恋人…俺がの恋人…?
「緑川…?」
覗き込まれた顔が近距離すぎて驚き、ついでに頭の方もやっとその意味を理解する。

「俺が…ヒロトの?」
「うん」
「あのさ…俺ポニテだけど男だよ?」
「知ってるよ」

どうやらヒロトは冗談でなく本気らしい。だか、ひとつ引っ掛かる言葉が脳裏を衾る。

「でも『期間限定』って?」

質問を投げかければ、未だ近距離にいるヒロトはああそれは、と指に絡めた俺の髪をくるくると巻き付けて弄る。

「期間を設ければ、もし緑川にその気がなくても可能性があるかなって、」

いつもより更に柔らかく微笑むヒロトは小さく囁いた。

「どう?」

恥ずかしい事を言っているのはヒロトの方だというのに、当の本人は涼しい顔をしていて何故だか俺の方が恥ずかしくなる。
問われた答えは決まっていた。


「…俺でいいのなら、」




そういう訳で『期間限定』の恋人になった。期間限定の理由がいまいち理解できない。
聞けば、タイムリミットは一週間。今日含めあと4日。
かなり短い気もするが、彼に言わせればその方が毎日の時間を大事にできる、らしい。実際この3日間は一緒に過ごす時間が一日の大半を占め、俺を大切に想ってくれているのがよく伝わってくる。


赤くなったリュウジも可愛いよ、とにこやかに右手を差し出してくる。
その手を差し出された意味が解らず戸惑っていると、半ば強引に左手を取られる。そして指と指を絡めて優しく力を入れて握られる。

「ヒロトっ…こんな街中で…」

恥ずかしいと俯いて呟く。

「じゃあもっと恥ずかしい事」

と言って、握られた左手を引っ張られ、バランスを崩した俺はヒロトの方にもたれ掛かる。その一瞬に触れるだけ、唇を重ねられる。
バランスを崩したせいでそのまま抱き着く形になってヒロトに支えられた。

「ごちそうさま」

耳の近くで上機嫌な声を聞いて、恥ずかしさに耳まで赤くなっているだろう顔をヒロトの肩に埋めた。

「もう…ヒロトのバカ…っ」


(タイムリミットなんて

 来なくていいのに、)




期間限定の恋












end









*****

期間を設けて、最初はあんまりその気じゃなかったリュウジが、ヒロトを変に意識してしまって好きになればいい。ヒロトも実は気になってる程度で好きじゃないけど、リュウジのふとした可愛い仕種に、どんどんヒロトの拍車がかかってちゅーとかしちゃったりしていればいい。
限定という人間の心理を突く言葉で、いつの間にやら恋が燃え上がっている二人のお話でした。



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