dolce text | ナノ
もしも世界が、
もしも世界にパラレルワールドが存在するとして、それでも俺ははお前達の隣にいるだろうか。
夢にしては妙にはっきりと記憶にあり、それはとてもリアルだった。普段は曖昧にしか覚えていなかったり覚えてさえいないのに、それどころか矛盾などが全くなく鮮明に記憶に定着していた。あたかも自分が実際そうであったかのようにさえ思える程、擬似体験とでも言うくらいに現実味のあるような夢だった。
父さんは、実の息子を不条理に事故だと判断された事件で亡くしていた。そしておひさま園を開いて、身寄りのない俺達を引き取りここまで育ててくれた。ここまでは今現在と同じだった。 夢では、その息子の恨みを晴らす為に、手に入れた石の力で俺達を宇宙人の使徒として、サッカーで戦わせていた。俺は『バーン』という宇宙人ネームで、プロミネンスというチームのキャプテンをしていた。幼馴染みの風介は『ガゼル』という名で、同じくヒロトは『グラン』と名乗り、俺達三人を中心に日本中を恐怖に陥れる『エイリア学園』を演じていた。
「くだらん」 昼休み、風介とヒロトと三人で机を寄せ合わせて弁当を広げながら、二人にその夢の話をすると風介に否定された。 「だいたい宇宙人など、この世に存在するとでも思ってるのか?全く、晴矢の頭はおめでたいな」 「でも、なんか楽しそうだよね」 風介の腹が立つ言葉とは打って変わって、ウインナーを飲み込んだヒロトが暢気に言う。 「晴矢の名前が『バーン』かぁ…その髪型にぴったりだよ」 笑いを堪えながらそう言うヒロトと、そのヒロトの言葉を聞いてくすくすと笑いながら「効果音みたいだな」と零す風介に、また更に腹が立った。 「うっせーな…!夢ではそうだったんだって」 「じゃあさ、しばらく俺らその名前で呼び合うとか、面白そうじゃない?」 「「断る」」 ヒロトの提案に声を揃えて否定を口にした俺と風介に、思わず「息ぴったりだね」と微笑みながらヒロトは言った。 「私に被るな」 「そっちこそ」 「バーンのくせに、生意気だ」 「生意気…っておまえ…!」 「晴矢なんかバーンで充分だ」 「お前だって、ガゼルって名前、鹿でいいじゃねぇか」 俺と風介の言い争いはもはや日常と化している。言い争いを始めると、ヒロトはニコニコ気持ち悪い笑みを向けて黙って弁当を啄みながら、こちらを眺めていた。
「バーンに、ガゼルに、グラン、かぁ」
俺達の言い争いが一段落着いて中断していた昼食の弁当を食べていると、先に食べ終えていたヒロトが独り言のように口にした。 「俺らはさ、例えばパラレルワールドとか、そういう世界でも三人一緒だといいよね」 そうしみじみとヒロトが言うのを聞き、俺は思わず弁当をかき込む作業を止める。風介のちょびちょびと弁当を口に運ぶ手も止まる。 「は、パラレルワールド?」 「そう。それこそ、他の世界で俺らは宇宙人かもしれないよ?」 もしパラレルワールドがあったとして、もし俺達が宇宙人を名乗っていたとして、もしそんな現在があったとしても、俺達はどこの世界でも出会い、形や事情は違えどこの様に一緒にいるかもしれない。 「全くもって迷惑な宿命だ」 「そうだね」 腕を組み言い放つ風介も、いつもの調子でにこやかに賛同するヒロトも、言ってる事と心に秘める思いは真逆だ。それくらい、何年も幼馴染みやってる俺が察するのは安易い。 「腐れ縁っつー訳か」 椅子の背もたれに体重をかけ両手を頭の後ろで組みながら言う。 「ま、もしもの話だけどね」
ふと窓の方を見ると、日中特有の暖かい日差しが降り注いでいる。こんな時の流れがゆっくりなこの世界に、パラレルワールドだの宇宙人だの信憑性に欠ける事を話していても信じられないはずなのに、どうしてか今日はそうであって欲しいと思わずにはいられなかった。
他の世界でも、俺達は弁当を囲み合って食ったりしてるんだろうか?
(あ、二人とも、弁当早く食べて!) (やっべ、昼休みあと5分かよ) (ほら風介も、ちびちび食べてないで急いで!) (私は、晴矢みたいに急いで食べれない、急かすなヒロト) (お前が食うの遅えだけだろ)
end
*****
初の南涼基でした。あれ…私南涼を書こうとしていた筈…あれ?何でヒロトがいるんでしょうか?← これは後々南涼にリベンジしたいですね…
なんだかんだでどこの世界でも三人は仲がよろしいと思います。お互いを貶し合いながらも、いつも一緒に弁当食べてればいい。そして三人ともサッカー部とかね。 サッカー部の3トップ…良いかもしれない…書きたい!! ヒロトがビッチっぽくなくって、なんだかお母さんキャラみたいになってしまったのがすごく残念。空気読めない感じに書きたかったです。
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