dolce text | ナノ



その色を私は知る



*南←涼の一方通行
*軽く設定説明
おひさま園にいたのはガイアのみ。晴矢も風介もジェネシス計画の際に収集されて出会った。でも晴矢は両親を亡くして天涯孤独の身で、晴矢は親戚の家に預けられているとかなんか。それを風介はガゼルの頃に何となく聞いて知っている。
宇宙人編終幕、吉良星二郎が捕まりエイリア学園は解散、子供たちはそれぞれまた安定した生活ができるようになるが、バーンとガゼルは別れる時ですらお互い意地を張って、連絡先の交換をする事なく最後までいがみ合っていた。そして生活が戻ってから2,3ヶ月後くらいの話。











人が多い大通りを歩かなければならなかった。私にとって、人の集まる所というのは苦手というか何と言うか、あの他人との密着感が嫌でとにかく出来るだけ避けたいものであった。でも目的地へ行くにはそこを通るしかなく敢え無く人を避けながら歩いていた。
それはこの辺りで最も人の通る交差点の信号であった。

ふと視界の脇に入った、目と脳が自然と捕えた色。深く赤みのかかった綺麗な色。自然に引き寄せられてそちらを見るが、すぐ人込みに紛れて消えていってしまった。
最初はぼんやりと、とても懐かしいと思った。ただ純粋に。そして次の瞬間思わず目を惹かれたそれが、ある感情も混じって記憶の断片が脳裏に一瞬映った。

いや、まさか。そんな訳がない。

思わず自分が人込みの中にいる事を忘れて立ちすくんでしまった。するといきなり強い衝撃で倒れそうになる。自分が立ち止まっていたせいで他人がぶつかり嫌な顔をこちらに向けてきた。すみませんと謝る暇もなくぶつかった人は足早に行ってしまう。これだから人込みは嫌いだ。
そうしてまた歩き出しつつも、先程の『赤』に脳は忙しかった。


私はあの赤を知っている。そして誰よりも見分けられる自信がある。あれは世界中どこを探してもただ一人しか持ち得ない色だ。私は一瞬だけれど確かに見た。信号の赤よりも深く、林檎の赤よりも艶やかで、高級ワインの赤よりも滑らかで、血の赤よりも暗くそれでいて優しい、世界にたったひとつの赤。
本人かを確かめたかった。周りを見渡すと目的地とは反対の道近くに青いペンキで彩られた歩道橋があり、何も考えずに走り出す。人の波を掻き分けて脳はただ早く早くと自身を焦らす。人にぶつかってしまってもこの際構っていられなかった。人込みが嫌だとか考える余裕もなかった。早くしないと確かめる前にいなくなってしまう。

青い歩道橋の階段を駆け上がる。地上の道とは違い歩道橋を利用する人が全くと言っていいほどいなかった。自分でも流石というべきか、サッカーで鍛えていただけあってここまで走ってしかも階段を駆け上がっても、あまり疲れを感じていなかった。道路の中程まで来て手摺りに手をつき下を眺める。人の多さに改めて驚きつつあの赤を必死に探す。

離れて、初めて気付いた自分の中の感情。いや、本当は前から気付いていたけれど素直になれずにいた。いがみ合って毎日口喧嘩をしていた過去の自分に後悔ばかりが募った。その頃はある意味ひとつ屋根の下、連絡手段など直接赴けば済む事で事足りた為に必要なかった。
だから離れて繋ぎ留められていたものが何もない事に気付き、諦めかけていた。ただ、あの煩い声が聞きたい。人を挑発するような目つきのギラギラした金色の瞳を、人を嘲笑うあの忌ま忌ましい顔を、曲がりなりにもチームを共にした姿を、ただ見たい。


目がひとつの赤を捕える。紛れなく先程の赤だった。少し遠いが充分確認できる距離だった。

「…バーン」

走ってここに来るまでに内で叫び続けた響きを自分だけが聞こえるくらいの音にしてみた。無性に泣きたくなって涙が瞳に溜まる。瞬きをすると睫毛に絡まって重力に耐え切れなくなった雫が頬へ伝う。止まらない。
「バーン」
もう一度、今度は震えて掠れた音が出る。ぼやけた視界で段々遠くなるその赤を、涙を袖で拭いながら目で追う。確か、と何度か聞いた事のある名前を、ゆっくり口にする。

「はる…や」

また、走り出す。今度はその赤に向かって。
赤い目のまま、私はその赤へ蹴りを入れるか、相変わらず癖の強いおめでたい髪型に手の鉄槌を入れるか考えた。











end









*****

ずっと書きたかった南涼!!風介のキャラ崩壊…してると思われますが、海の広さに比べてちっぽけなことだと思っていただければいいです。
歩道橋が青いのは、晴矢の赤に対照させて風介の居る場所を青くしたかっただけです。特に意味は無いです。


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