dolce text | ナノ



温度差



ガゼルが熱を出した、と耳にしたのはガゼルと夜の戯れをした次の日の朝。昨日名残惜しくも別れた時はまだ大丈夫だった筈、と昨夜の事をひとつひとつ思い出していくと自分にも思い当たる節があった。
その戯れの際、人並み以上に平熱の低いガゼルに人並み以上に平熱の高い俺が触れていたのが原因か。しかもそれは、それでなくとも熱を発する行為だ。俺が触れるとどこもかしこも肌の表面が冷たく感じられるあいつが、何だかいつもより熱いみたいな事を言っていたっけ。それを俺はこの行為のせいだと気にはしなかった。まさかあいつが熱を出すとは。

そんな事を考えていると自然とガゼルの部屋へ足を運んでいた。
心配といえば心配だし、なんせ恋人だし、そもそも明らか自分が蒔いた種なのだから謝るべきなのだが、何と切り出したらいいか分からず昨日の夜戯れた部屋の扉を前にノックするのを躊躇った。
するとちょうどタイミング悪く、企みを含んだ笑みをこちらに向けながら歩いてくるグランがいた。何でこいつがこんな時にこんな所に、と俺は睨む。
「やあ、ガゼルが寝込んでるって聞いてね」
「…ああ」
「まぁ、君たちの事だから首はつっこまないであげるよ」
そう言って立ち止まる俺を過ぎていく。何しに来たんだよと去っていくそいつの背中をまた睨むと、そうそう、と何かを思い出したようにこちらを振り返った。
「さっきガゼルの部屋行ったら、譫言で君の名前呼んでたよ。早く入ってあげたら?」
じゃあねと右手を挙げてまた歩き始めた。あいつはもう既に全てを把握ししかもガゼルと会った後だという訳か。一々お節介だと思いつつ、譫言で俺の名前を呼んでいたという事を聞いて嬉しくなってしまっている自分がいた。
普段愛情表現どころか笑顔すら見せない無表情の凍てつく闇は、そういう戯れの時でないとなかなか素直になってくれない。しかも始めは抵抗されるからそこに持っていくまでに少し骨が折れる。まぁそんな所に思わず可愛さを感じてしまうんだが、なんてひとり扉の前でにやつきながら考えているのは端から見れば不審だ。
いい加減部屋に入らなきゃこのままじゃ埒があかないと、意を決して扉に向かって言う。

「ガゼルー、入るぞ」

どうせ寝ているだろうと思って勝手に扉を開けて中に入る。部屋は薄暗く、廊下よりも温度が低く少し肌寒い。寒いのが苦手な俺は両手で二の腕辺りを摩擦熱で暖めながらガゼルのベッドの傍らに近付く。

「…バーン」

そいつが横たわる顔の前辺りに誰か他の奴も来て座っただろう椅子があり、そこに座ると、それこそ風邪を悪化させるんじゃないかという程薄い掛け布団のガゼルが、薄く瞼を開き碧い瞳を覗かせ、気をつけて聞いていないと気付かない程の声で俺の名を呟いた。
「お前…起きてたのかよ」
「そんなにずっと寝ていられる訳ないだろう」
弱々しくも素直じゃない言葉は何故か俺を安心させる。
「熱、大丈夫かよ?」
「大丈夫だったら寝込んでなどいない」
全くお前のせいだと言われて俺は返す言葉に詰まる。
「昨日…あんな事するから…」
そういって薄い掛け布団を頭まで被ってしまう。
「わ、悪かった…」
「謝るな」
「じゃあどうしろっつーんだ」
すると黙られてしまった。俺が珍しく素直になってあげたのになどと考えたが相手は俺より素直じゃないガゼルだ、しかも熱を出している、冷静になれ、と自身に言い聞かせる。

沈黙になってしまったガゼルは一向に喋ろうとも布団から顔を出そうともしない。しばらく考えた後俺はベッドに身を乗り出し勢いよくその布団を剥いで顔を覗く。すると熱の所為とは違う、顔が赤く更に瞳をとろんとさせたガゼルがいた。
「…ガゼル」
「…ばか、バーンの所為で、」
熱上がった、と続けて視線を反らす。その熱が上がったと本人が供述する頬に触れると、やっぱり俺には冷たく感じた。
「あつい、」
んなの知るかと次に額と額がくっつくように顔を近付ける。熱が出たといっても頬同様に俺には冷たく感じられて、これ本当に熱かよと問うと、またあついと呟かれる。その近い碧い瞳がゆっくり閉じられるのを焦点の合いにくい視界で捉えて、その熱を持たない桃色の美しい唇を親指で撫ぞる。

そして熱を帯びた俺の口を重ねた。



あつい、

つめたい、




でも、きもちいい







(風邪がうつる)

(別に構いやしねー)

(でも君は何とかだから風邪はひかないんだっけ)

(お前ホントは元気だろ…)











end









*****

初めてバーン視点からでした。
バーンの平熱が37℃近くで、ガゼルの平熱は35℃近くだといいと思っています。バーンに触られ過ぎてガゼルが発熱したよって言うお話でした。お互い体温が違うけどそれがいいってお互い思っていればいいと思います。
『昨夜の事』は…まぁ察せばいいさ←他人事
そういう関係なのにも関わらず二人がぎこちないのは、バーンがガゼルを大切に思うが故とガゼルがクーデレだからだと思います…単純に私の文才不足もありますね^^;
グランは友情出演です^^


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