dolce text | ナノ



バイバイ、恋が死んだよ



拝啓 大好きなあなたへ

 こうして手紙を送るのは、多分初めてな気がします。キャラバンの頃は直接会話でしたし、最近はずっとメールでしたから、俺のペンを持つ手も少し震えています。
 俺は、相変わらず毎日サッカーの練習の日々です。部活の先輩達に鍛えられて「ムゲン・ザ・ハンド」に磨きをかけています。
 あなたはきっと、サッカーとサーフィンと、忙しなくも楽しい日々を過ごしている事でしょう。

 俺は、あなたと一緒にサッカーをした日々を、あなたと共に練習した日々を、思い出さずにはいられません。
 初めて出会ったときのあのシュートの感覚も、初めて向けられた太陽のようにまぶしい笑顔も、あなたに協力してもらって初めて完成したあの技も、その技の完成の喜びも、大きくあたたかい手で頭を撫でられた感触も、全部が俺にとって大切で、十数年の人生の中で最大の宝物です。


 あの日も言いましたが、俺、やっぱり、あなたの事が好きみたいです。
 あなたはその時、もう一度よく考えてみろと真剣な眼差しで言ってくれました。俺はこの一ヶ月余りずっと考えましたが、やっぱり好きなんです、あなたが。
 あなたは男が男を好きになるなんておかしい、と思うかもしれません。でも、いつも思い出すのはあなたの珊瑚色のふわふわな髪だとか、光を浴びて反射するゴーグルだとか、にかっという効果音の似合うその眩しい笑顔だとか、黒く焼けた艶めく肌だとか、全てあなたの事なのです。
 自分でもおかしいのはわかってます。それでも、抑えられないのです。

 メールだとなかなか送信ボタンが押せなくて、電話だと緊張して何もしゃべれなくなってしまうので、すぐに削除することのできない手紙という手段をとってみました。
もしあなたが、俺をただの後輩だと思っているのなら、この手紙を






ふと、机に置かれていた携帯が振動して、着信を知らせた。光るライトの色がいつもの着信と違うのは、ある特定の人をそういう設定にしたからだ。すぐにメールの送り主はわかった。
まるで偶然といえない偶然のタイミングで、あなたからメールが来るなんて。

変に心臓が煩くなって、携帯を開く指も心なしか震えていた。携帯を開けば一件の新着メールがありますという通知。真ん中のボタンに親指をゆっくりかけて、押す。

ほらやっぱり、あなたからのメール。

嬉しくて飛び跳ねそうな心臓を深呼吸して落ち着かせて、俺はそのメールを開く。


そのメールを見て、衝撃を受けた。


「立向居、俺彼女できたぜ。一番大切なお前に一番に知らせたかったんだ」

「今度、紹介するからな!」



ベッドに携帯を投げ出した。俺は机の上の紙切れを思いっきり破った。半分に千切って、重ねてまた半分に千切って、また重ねて千切って、その繰り返し。

目が熱くなって、目の前が霞む。瞬きをすれば屑となった紙切れの山にぽたりとそれが落ちた。
俺はばかだ。女の子が好きだなんて、当たり前の事。あなたはかっこいいし心が広いし優しいから、言い寄る女の子だって居て当たり前。男に告白されたって、何も嬉しくないに違いない。
当たり前の事を、当たり前と理解していたはずなのに、俺は本当にばかだ。



綱海さん、それ、間違ってますよ。

一番大切なのは、俺じゃなくて彼女でしょう?
あなたに彼女ができた時点で、あなたの中での『一番』にはなれない事くらい、ばかな俺だって知ってます。



ふらふらとベッドに倒れこむように寝転んで、俺は静かに泣いた。放り出した携帯の画面に開かれたままのメールは、見たくない。

返信は実に簡単な事。
「おめでとうございます。お幸せに」と送ればそれで済むだけの事。
でも、その簡単な事が今の俺にはできそうも無い。

携帯画面に映し出された無機質なビットの羅列を、俺は電源ボタンを押して消し、あの日の最後にふたりで撮った待ち受けを表示させた。

蛍光灯の光が当たってストラップが嫌に光る携帯を枕元に置いて、


想うはただあなたのこと。





バイバイ、恋が死んだよ



(俺の初恋は、あなたでした。)











end









*****

綱←立でした。久々に綱立が書きたくなった衝動で書き上げました。
2期の後、福岡に帰る時に立向居が綱海に気持ちを打ち明けますが、もう一度考えてみろと綱海が突き放して、一ヶ月後くらいの話です。二人はちょくちょく連絡とってます。
綱海はきっと立向居のことが好きだけど、自分のせいで間違った道に行ってしまったら行けないと思って、わざと彼女を作って自慢メールを送るんです。
不器用に優しい綱海(優しさとは言わない)と、初恋が破れた立向居のお話でした。
そして手紙もすぐに削除できる事を立向居は知るのでした。締まらない。

title by 確かに恋だった


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