dolce text | ナノ
嘘
4月1日。 世間的にはエイプリルフール。
誰が考えていつ施行していつ広まった、などの詳しい事は知らないが、その過程にいる人は全く無責任だと思う。何故つくった?大体いたずらに嘘をついていいなんて、良い事じゃないと俺は思う。『嘘は泥棒の始まり』なんて言葉があるし、元々自身がすぐ人に騙されるという事もあってか、嘘はいい方面以外であまり使いたくはない。
でもそんな日に、もちろんノリの良いこの人は予想を裏切らず実行するのである。
「つ、綱海さん!」 「勇気は素直だから、ほんっとからかいがいがあるよな」 ははは、と大きく口を開けて愉快そうに笑う。対照的に俺の感情は不愉快だ。そもそも騙されて一緒に「ははは」と愉快に笑っていられる精神を持つ人の方が稀である。今日はもう何回もそんな事態が起きているから、不愉快になるのも当然だ。 「…もういいです」 綱海さんとは反対の方に顔を向ける。そんな俺の態度や表情を読み取ったのか、慌てて言う。 「…わりぃ、調子乗りすぎた」 「もう俺、今日何回綱海さんに騙されたと思ってるんですか…」 「だから、わりぃって…」 顔の前に両手の平を合わせて謝られる。騙された内容が内容だったため許容範囲であり、ここで綱海さんを許してもいいのだが…ほんの少しの出来心で言ってみる。 「綱海さんなんか、もう…嫌いです」 そう言いつつも綱海さんの隣から離れて行かないのは矛盾しているけれど。 「んな訳ねぇだろ」 でもやっぱり、すぐ見抜かれてしまう。膨れっ面を思わず零れた笑みに変えて綱海さんの方を向く。 「…そうですね」 「俺もお前が必要不可欠だかんな」 さらっと何気なく言われた言葉にひそかに胸を踊らせる。 「俺は別に、綱海さんがいなくても円堂さんがいれば大丈夫ですよ」 それでも厭味っぽく答えるのは、照れ隠しとちょっとした仕返し。 「ちょっ…おまえ!」 本気にしたのかどうかは解らないが焦る綱海さんを見て、今日俺を何回も騙した綱海さんの気持ちが少しわかった気がした。
(…嘘ですよ、俺も綱海さんが必要不可欠です)
背伸びをして少し高い位置にある耳許で、そっと囁く。
一日くらい、嘘はいいかもしれない。
end
*****
元拍手文でした。 エイプリルフール、純粋なたちむならさまざまな人にからかわれそうですが、腹黒さで全てを回避してそう。でも綱海だけにはどうしても騙されちゃってたり…。 そんな綱立で四月馬鹿でした。
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