dolce text | ナノ



あたたかいあなたの



ぽかぽかした陽射しが気持ち良くなるくらい調度よい暖かさで、すっきりと晴れて雲ひとつとない青空。ほんの微かに吹く風は肌寒いが、日当にいれば気にするほどじゃなかった。


そんな眠気を誘うような気候の空の下で、昼休み、既に弁当を食べ終えた俺とひなたぼっこをしようと、綱海さんが俺の教室を訪れて来た。どんなに暖かくても、沖縄育ちの綱海さんには東京の冬の天候は人一倍寒く感じるらしい。
まだ転校してきて日数が経っていないので、親しいのはサッカー部内の人達だけであり、そんな俺を、同じようにクラスに完全には解け込めていないであろう綱海さんは連れてここに来た。

「やっぱ外は寒ぃな…」
「これでも今日は暖かい日だって聞きましたよ」
数人が端の方で弁当を広げている以外に屋上に人はおらず、その集団と反対側の端の方の日当に、綱海さんが隣に半ば強引に俺を座らせ、綱海さんもそこに座る。しばらく陽射しを浴びて暖まりながら雑談をする。

ふと、綱海さんが口を開く。
「立向居の…『勇気』って、いい名前だよな」
余りにも唐突で、そして何気なく下の名前で呼ばれて驚く。それと同時に凄く嬉しくて、そして何だか少し擽ったくて恥ずかしい。
「!…何ですか、いきなり…」
顔が少し赤くなっているのが自分でも解ってしまう。
「なんか『勇気』って似合ってるし、呼びやすいし、うまく言えねーけどさ…」

「俺は好きだな」

名前の事を言われているのに、まるで自分がそう言われているみたいに感じてしまって。頭では解っているけど顔がさらに赤く熱を持っていくのが分かって、何だか恥ずかしくなって思わず俯く。

「…そんな風に言われたのは初めてです」

「そうか?俺は名前知ったときからずっとそう思ってたけどな」

そう言って、無邪気で心があたたかくなるような笑みをこちらに向けてきた。綱海さんが笑顔になると実年齢より少し幼く見える。言動もそうだったり、逆にやっぱり年上だなと感じさせる事もある、不思議な人だ。そんな綱海さんを見て、思わず自分も笑みがこぼれる。綱海さんの笑顔は太陽みたいに眩しくて、あたたかい。



「…なぁ」

「なんです?」

「これから『勇気』って呼んでもいいか?」
皆が苗字で呼んでたから今までそんな感じだったけどよ、と隣の俺の方ではなく正面の青空を見つめながら、少し照れがあるように見える綱海さんは言った。

嬉しいです、

と気付けば小さくだが口に出していて、また恥ずかしくなる。でも、苗字で呼ばれる事が殆どで、つまりは綱海さんだけに名前で呼んでもらうなんて…正直嬉しい。
口走ってしまった言葉をどうごまかそうと回らない頭で考えていると、どうやら聞こえてなかったらしい綱海さんは、今なんか言ったか?、と聞き返してきて安堵する。

「いいですよ、呼んで下さい、名前で」

じゃあ決まりだな、とまた俺に無邪気なあたたかい笑顔を向ける。



心も体もあたたまったのは、暖かい陽射しのおかげか、それとも綱海さんにちょっと近づいた気がしたからか、

はにかんだ笑顔を返したら頭を撫でられ、そして、

「勇気」

名前を呼ばれた。




(綱海さんの笑顔、あたたかい…)











end









*****

イナイレ第一弾の拍手再録でした。ちょっと編集。
結構前に書いたものなので、見返すと文章がよろしくないですね。まぁそれは文章力成長の証だと思っております。
綱海は『勇気』と呼んでても何の違和感も無いですね。たちむは恥ずかしそうに『条介さん』と言って欲しい。


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